テニミュとは世界で最も霊界に近い場所!? ~男が観てみたテニミュ青春☆観戦記~【Part3】

 ここで仁王は、何と青学・手塚部長へとイリュージョンする。舞台上には、仁王と背中合わせになるように手塚役の多和田秀弥が登場。仁王と手塚の2人が1人の選手として交互に激しく舞う。真田戦のダメージで2度と試合は不可能なのではと心配したが、イリュージョンとはいえ(幻です)、手塚の雄々しく強靭なプレイを再び観ることができて嬉しくなった。無表情で踊るイケメン・イリュージョン手塚だが、動きはやはりキレキレだ。仁王は手塚の動きと技を駆使して、不二を追い詰める。「これがホントの手塚ファントム!」と叫びたくなる気持ちを我慢した。そして、今書いた。

 テニミュの試合シーンでは、頻繁に舞台装置のネットがコート上をグルグル回転する。話のメインになるキャストを舞台奥から客席側に出したり、攻守の位置を入れ替えたりと忙しいが、舞台の立体感を出し、時に試合の疾走感を演出するこのアイデアが素晴らしいなと感心した。演技にシンクロした打球音と回転するネット。この2つのアイデアが三次元化不可能と言われた『テニスの王子様』を舞台化し、これだけの人気を得るミュージカルとしてのバランスを出すために、どれだけ重要なものだったのか計り知れない。

 また、試合展開に合わせて忙しく動かさねばならないネットを、ボールボーイ姿のスタッフがキャストの動きや曲に合わせて手際よく目立たないように移動させていた。ここに、裏方を含めたテニミュのチームワークの良さも見て取れた。仁王戦では「イリュージョン」を再現するため、キャストの入れ替わりもあるので、よりチームワークが必要とされた試合だったのではないだろうか。

 仁王は舞台から消え、全国大会決勝で不二と手塚の青学頂上決戦が再現されていく。「久しぶりにネット越しでキミに会えたね」と、仁王相手(舞台上は手塚)に手塚の幻影へと話しかけ始める危険な状態の不二。手強い手塚との対決にやや錯乱気味にのめり込み、不二は精一杯ラケットを振りながら「僕は2人の決着がついてしまうことを恐れて、自然とこうなることを避けてきたのかもしれない」とほぼ恋心を吐露し始める。

節子、それ手塚やない、イリュージョンや!

 不二を演じる矢田悠祐の真っすぐでキレイな瞳が、より危うさを強調させていた。笑う仁王。まったくバウンドしない手塚の技「零式サーブ」を返すことができず、追い詰められる不二。次のラリーで試合は決まる。そして決勝敗退、青学デッドエンドだ。「これ以上、不二のピュアハートを汚さないで!(リアル手塚が見守る中で愛の告白はヤメさせたげて!)」と誰もが泣きそうなった時、不二は覚醒し、目を閉じてテニスをし出す。

……何という戦いだ。

 こんなテニス見たことない。幻影に惑わされず、ボールの「気」だけに反応して、がんがんリターンをキメる不二。テニスなのか何なのか、もうすごいぞテニミュ。仁王の「イリュージョン」を土壇場で破ったのだ。

 真っ白なスポットライトが不二を照らし、「いつかこんな日が来るような気がしていたよ。キミを相手に自分のすべてをかけて戦う時が!」といろんな方向性でシビレるセリフから、不二の曲「心の瞳~クローズドアイ~」が鳴り響く。『心のまま僕は君を思う』『君に返そう 僕の無垢な魂を』と、ここでも冴えわたる三ツ矢雄二作詞の歌詞が炸裂。臭う……ぷんぷんニオうぞ、仁王戦! そんなコチラ側の要らぬ心配をよそに、翻弄されながらも仁王の弱点を探っていた不二。「技を真似ることはできても、本人ほどの強さはない」と、すでに仁王には「零式サーブ」を続けて打つ余力はないと見抜いていたのだ。す、すごい! そのままゲームの奪取に成功する。

 しかし、仁王も負けてはいない。舞台後方に用意された巨大なカーテン(注:テニスコート上です)から手塚が現れたかと思うと、今度は四天のイケメン部長・白石蔵ノ介(キャスト:安西慎太郎)がセクシーに登場。準決勝で不二の必殺技である5つのカウンター技をすべて返し、完敗させた男だ。不二はまたしても窮地に立たされるのかと、前のめりになる。仁王は手塚・白石をバックダンサー代わりに、危ういダンスビートが鳴り響く「イリュージョン」で妖艶にダンシング。青春系が多いテニミュソングの中でも、『オレはアーティスト~』と中学生とは思えないズバ抜けた色気と怪しさが漂う楽曲だ。

 仁王のカッコ良さを伝えるだけにしたかった。が、やはり耳にひっかかる。歌詞が。『変幻自在のモノマネで天才を地に落とす』『手塚国光は超えられない 白石にも勝てない』と明らかに歌いづらそうな歌詞。言っちゃったよね、今さら。IKKOばりに「三ツ矢雄二どんだけ~!」って。不二の曲でも『でも誰かになりきっても本人とは言えないだろう』『でも形は模倣できても精神まで真似はできない』など、メロディなしで読み上げただけでも、その歌いづらさが如実に分かる音の並びが耳を強襲してきた。

これ以上、キャストたちの「歌って……楽しいじゃん!」の気持ちを潰さないで!!

 上杉達矢の双子の弟・上杉和也がいるであろう星空を見上げながら、IKKOは切に願った。兄貴に向かって、ポップ(※『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』の魔法使い)の極大消滅呪文「メドローア」をスッと撃ってくれないかなと。スッと。

 試合はいよいよ最終局面に。白石に「イリュージョン」し、不敵に笑う仁王。舞台に登場した白石役の安西慎太郎にも、先ほどのチアリーディングで見せた陽気なテンションは微塵もない。仁王は基本に忠実で“聖書(バイブル)”とまで呼ばれる白石のプレースタイルを模倣することで、不二が繰り出す必殺のカウンターを次々と攻略していく。不二も負けじとラケットを光らす。

……ラ、ラケット光ったーー!

 物理的に光った。イリュージョンではない。ついに試合中にラケットまで光った。恐るべし、テニミュ。光るラケットを使った不二の必殺技は非常にカッコ良かったが、やはり白石と化した仁王には通用しない。だが、勢いに乗った不二は強かった。「同じ相手に2度負けないよ」と“第6のカウンター”「星花火」を発動させ、仁王を粉砕。バックスクリーンと舞台照明をフルに使い、流れ星が落ちたような美しいエフェクトがコートにキマる。ラケットに内蔵された電飾がキラキラとライトセーバーのように輝いていた。崖っぷちの青学に、“天才”不二がついに悲願の1勝をもたらしたのだ。その瞬間、流れ星のあまりの美しさとこれまたアツい試合展開に、心の“ちゅうえい”が「パカーン、ちゅうえい!」って言ったような気がした。

 立海ベンチに戻り、誰とも目を合わせず座り込む仁王。悔しさが伝わってくる。立海メンバーも声はかけない。常勝を義務付けられたチームの精一杯の優しさに見えた。セクシーな仁王のダンスと歌に、イリュージョン役として手塚・白石が複雑に絡み合う舞台進行は見応えがあり、楽しい試合だった。颯爽と舞台に登場し、悪役ヒーロー然としたカッコいい仁王役を演じ切った久保田秀敏。見せ場の試合シーンの大半が、ほかのキャストで進行してしまうという点がちょっともったいないようにも思えるくらい(役柄上、仕方のないことだけど)。きっと彼ももっとコートでラケットを振りたかったに違いない。覚醒した不二に押され始めた試合の流れを観ながら、仁王にかけたくなった言葉が

「本当のキミ(のプレイ)をちゃんと見せてごらん」

 相当気持ち悪いフレーズだった。疲れてきたのかもしれない。ベクトルまで狂わせてくるとは恐ろしい子、テニミュ。だが、ここまで読んだ読者がいるなら、筆者よりもっと疲弊しているはずだ。

 印象としては、不二が“大天使ミカエル”ならば、仁王は“堕天使ルシファー”といったところか。照明の効果も、純白と漆黒というように両者のテーマがしっかり分けられていた。女性ファンの“タイプ”も二分されていそうだが、属性が違うものの、どちらも公演中に“召される・堕ちる”点で結末に何ら変わりはなさそうだ。

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