【実写映画レビュー】野心的なアレンジと相反する曲調――骨太なクイーン・松岡茉優のゴルゴ的存在感が救い!?『ちはやふる 下の句』

 そこにきて映画『ちはやふる』、特に『上の句』は、かなり大胆な「アレンジ」を楽しむ作品である。原作のハイライトエピソードを順調に消化していながら、なんと主人公が千早ではないのだ。

 原作『ちはやふる』は、千早が仲間を作り、挫折を経験し、成長し、ライバルを次々と倒してゆく物語だ。この、次々と新しいライバルと対戦していく形式は、古き良き「少年ジャンプ」の王道展開そのもの。原作『ちはやふる』が、「女の子を主人公にした少年マンガ」と呼ばれる理由が、そこにある。

 ところが『上の句』は原作と違い、千早に想いを寄せるかるた部の部長、真島太一(ましま・たいち/野村周平)の目線で描かれる。太一は、自分が千早ほどかるたの才能がないことを知っている。そして、千早が恋しているのは自分ではなく、綿谷新(わたや・あらた/真剣佑)という、これまた自分が到底及ばない超天才かるた野郎であることも、痛いほどわかっている。 『上の句』は、少女マンガで言うところの典型的な“当て馬キャラ”である太一を主人公として展開する、辛くビターな物語だ。原作とは対照的に、「男の子を主人公にした少女マンガ」の体。歌い手(千早)のマイクレベルをぐっと下げてベース(太一)をメインで聴かせる、大胆なアレンジというわけだ。

 この腹に響くベースは、見ていてひたすら苦しい。そして男泣きに泣ける。負けると分かっている戦にあえて挑む弱者の意地に、凡才である我々は涙が止まらない。

「勝ち目のない恋の戦い」をクライマックスの試合にピタリと重ね合わせる演出は、『上の句』の白眉中の白眉だ。競技かるたならではのルール、そこで詠まれる歌のチョイス、太一の思いがけない戦法――その三点が交錯する団体戦の決勝、太一渾身の一戦は鳥肌もの。ボーカル・広瀬すずの存在をも忘れさせる、エモーショナルな魂のベースがかき鳴らされる。

 しかし、映画『ちはやふる』には致命的な欠陥がある。「調」がおかしい。幼稚すぎるのだ。そこはマイナーコードで憂いたっぷりに歌い上げる演出だろ! というところで、なぜか小学校の合唱曲のような健全メジャー音階が雰囲気をぶち壊す。要は、低年齢向けのずっこけコメディ演出が目に余るのだ。

 コミックなら許されるコメディタッチの演出も、実写ではサムくなりがち。コミックでは多少の脱線ギャグも主旋律たるシリアス展開を邪魔しないが、実写で俳優がコメディを演じるとインパクトが強すぎて、全体の楽曲トーンをコメディ一色に染め上げてしまうからだ。

TVアニメ『ちはやふる』 Blu-ray BOX【期間限定版】

TVアニメ『ちはやふる』 Blu-ray BOX【期間限定版】

実写映画にあわせてか、4月20日にBOXがリリース。一気見にどうぞ

【実写映画レビュー】野心的なアレンジと相反する曲調――骨太なクイーン・松岡茉優のゴルゴ的存在感が救い!?『ちはやふる 下の句』のページです。おたぽるは、人気連載映画その他の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!