梅雨も明けて夏本番。各地で夏祭りの笛や太鼓が聞こえる時期になってきた。そして、今年の夏は戦後70年の夏。時代の転換点となった、この夏に相応しいCDが登場した。『みんな輪になれ ~軍国音頭の世界~』(ぐらもくらぶ)が、それだ。
これまで数々のSP音源を復刻してきた「ぐらもくらぶ」が今回選曲したのは読んで字のごとく、時代を象徴する「軍国音頭」の数々である。収録される曲は「満州音頭」に「戦勝音頭」や「軍国盆踊り」と、とにかく不穏さと陽気さが入り交じったタイトルばかり。さらに「みんな輪になれ」「どんと一発」といったタイトルからは、バリバリの踊らされている感を感じるのだ。
ライナーノーツの解説にも参加する、軍歌とプロパガンダ研究の第一人者である文筆家の辻田真佐憲氏は、このCDの意義を次のように語る。
「今年は終戦70年の節目を迎えて、当時を体験者が語る企画もさまざまなメディアで展開されています。これまでもそうでしたが、体験者が語る戦時下とは暗い陰鬱としたものばかりです。しかし、実際には明るく楽しい娯楽作品を通じて戦意を高揚させ、戦時動員に参加していたのも事実なんです。今回のCDでは、誰もが忘れてしまいがちな“勝っている頃の楽しさ”というものを再認識することができると思います」
これまで『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』(幻冬舎)などの著書を通して、エンターテイメントが「売れるから」という理由で戦意高揚のプロパガンダに協力したという事実を記してきた辻田氏。今回のライナーノーツでも、これらの楽曲に国策的スローガンを紛れ込ませることで反発を生むことなく「踊る動員」、すなわち、知らず知らずのうちに民衆の戦意を高揚させることに成功していたのだとする。
この「軍国音頭」は振り付けの解説も添付され、実際に踊ることができる。祭りともなれば、こんな歌詞が流れる中で踊り狂っていたのだ。
イジャナイカ イジャナイカ イジャナイカ
挙国一致で イジャナイカ
(「戦勝音頭」より)
現在よりも娯楽の選択肢が少ない時代。あちこちから聞こえる祭りの音で、こんな歌詞が流れていれば、知らず知らずのうちに戦意高揚が快楽になっていったであろうことは想像に難くない。
ちなみにレコード会社側にとってみれば、「軍国音頭」はリズムがほぼ一緒なので歌詞を少し変えただけで別の曲として売り出せて、低予算で大きく稼げる美味しい商品だったという側面もあるそうだ。
収録された22曲を聴いていて気づくのは、「軍国音頭」もほかの軍歌と同じく、太平洋戦争の戦局の悪化に呼応して、その“ヤバさ”が漂うものになっていることだ。「どんと一発」という曲はサビの部分がヤケクソ感を丸出しに、次のように歌う。
どうせ勝負にゃ なりゃしない
ソレ どどんと一発 轟沈だ
(「どんと一発」より)
勝負にならないのは鬼畜米英のほうなのだが、どうも日本軍に対する皮肉が入っているようにも聞こえる。
さらに、なんだか意味がよくわからないのは「八の字音頭」。
エイヤー
音頭とれとれ 八の字づくし
(「八の字音頭」より)
これが歌い出しである。何かと思えば「八紘一宇」【※「世界をひとつの家にする」として、第二次世界大戦時に日本が掲げていたスローガン】の八の字なんである。こんな曲で、みんなが楽しく踊っていたなんて、と改めてプロパガンダの効果に驚く。
残念なのは、ライナーノーツのページ数の都合により、当時は誰もが踊っていた振り付けの全収録とはなっていないこと。せっかくだから踊り狂って戦後70周年を考えたかった! こうなったら、CDを聞きながら自由に踊っていい?
(取材・文/昼間 たかし)
夏に響いたプロパガンダ――CD『みんな輪になれ ~軍国音頭の世界』で「踊る動員」を追体験!?のページです。おたぽるは、その他、音楽、軍歌、ぐらもくらぶ、みんな輪になれ ~軍国音頭の世界の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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