「イギリスこれから おじゃんです」戦後70年、今までと違う軍歌CD集がスゴイ!

 戦後70年の夏を前に各社から軍歌CDのリリースが始まり、話題となっている。これまでも節目の年ごとに各社による軍歌CDの復刻は行われてきた。だが、今年が従来と違うのは“軍歌ブーム”が新たな時代へと入っていることだ。

 きっかけは、本サイトに幾度も登場してもらっている軍歌研究者・辻田真佐憲氏が2011年に出版した『世界軍歌全集―歌詞で読むナショナリズムとイデオロギーの時代』(社会評論社)であろう。この本でも、インターネット、とりわけYouTubeの利用増によって、これまで知られてもいなかった軍歌が手軽に聞けるようになった状況が記されている。

 そして、この本をきっかけに、従来とは違う、サブカル的に軍歌を愛聴する人口はジワジワと増加している。それは、辻田氏が昨年著した『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』(幻冬舎)がベストセラーとなったことにも表れている。この本は、軍歌を題材としたプロパガンダに「売れるから」という理由で多くの人々が便乗したことを、冷静な筆で考察している教養書だ。サブカルとはまた異なるスタイルで軍歌を扱う本が売れることも、過去の軍歌に新たな形で興味が持たれていることを示している。

 そうした中で迎えた戦後70年。これまでになかった形の選曲軍歌CD集として話題になっているのが、『日本の軍歌アーカイブス』(ビクターエンタテインメント)だ。全5枚のこのCD集は、ジャケットイラストをマンガ家・今日マチ子氏が担当したことでも知られる作品。従来の軍歌CD集と見比べると、オリジナル感が際立っている。そして、収録された曲も目と耳を引くものばかりだ。

 5枚それぞれのコンセプトも、近年の軍歌への視点を反映したものとなっている。『日本の軍歌アーカイブス Vol.1 陸の歌「戦友」1932-1944』では、陸上戦を主題とした作品と共に、新聞社が募集した軍歌を収録。戦前・戦中において、新聞社は販促キャンペーンを兼ねて多くの軍歌制作に関与したり、公募を行っていた。そこから東亜新秩序を訴える『興亜行進曲』(「朝日新聞」による公募)など、さまざまな軍歌が誕生。これらの曲は当時人気の歌手を使い、商業音楽としてもレベルが高い。ゆえに、エンタメが「売れるから」と走り続けたという現実が、耳を通して実感できるのである。アーカイブスはこのほか、各巻で海の歌・空の歌などをテーマにしている。

 特に注目したいのが、『日本の軍歌アーカイブス Vol.4 銃後の歌「いくさごっこ~萌え軍歌~」1929-1943』。この巻に収録されているのは、当時のアイドルともいうべきティーン歌手の楽曲と童謡だ。「煙草屋の娘」でも知られる平井英子が歌う「守れよ満州」は、その歌い出しで慄く。

 わたしの兄さん、満州で死んだ、
 ぼくの父さんも、満州で死んだ、

 幼い歌声でのトンデモない歌詞。しかも、作詞がかの詩人・西条八十なのである。

 土井晩翠の作詞で日本ビクター児童合唱団が歌う「シンガポールが陥ちました」も、やはり歌詞の強烈さゆえに脳裏に焼き付く。

 シンガポールが陥ちました
 イギリスこれから おじゃんです

 こうした歌詞をサブカル的に冷笑しながら聴くことはできない。楽曲としては、非常に優秀。しかも、当代の優秀な詩人たちの作詞ゆえ、非常に耳に残るのである。つまり、プロパガンダとして非常に優秀な曲ともいえる。

 音楽と戦争との関係を改めて知ることのできる戦後70年。なお、ビクター以外ではキングレコードから入門編ともいえる『出征兵士を送る歌 これが軍歌だ』が発売されている。

 今年は、軍歌に興味を持つ人にとっての当たり年となっているようだ。
(文/昼間 たかし)

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