『ガルパン』『艦これ』の先には流行歌の再評価が来る? 『はたちのバタヤン大ヒットパレード』

 かつては、ごくごく限られた範囲の趣味でしかなかったハズの軍歌。それが、今やメジャーなジャンルになりつつある。以前、日刊サイゾー外部サイト記事参照でも紹介した辻田真佐憲さんの研究本『世界軍歌全集―歌詞で読むナショナリズムとイデオロギーの時代』の登場、昨年からのテレビアニメ『ガールズ・パンツァー』のヒット、そして、今年に入ってからのゲーム『艦隊これくしょん』のフィーバーによって、もはや、軍歌も含めたミリタリーでも古いものを愛好するという行為は、ものすごく裾野を広げている。まさか、生きているうちに若い女の子が、駆逐艦の名前を連呼する時代が来るなんて。

 こうして、いま盛り上がりつつ軍歌の再評価を経て、新たなムーブメントが起こりつつある。それが、昭和の流行歌である。もはや、歌い手はほぼ物故者となり、愛聴していた世代も高齢化が著しい流行歌。そんな音源を、再び世に出そうとする「漢」がいるのだ。

 彼の名は、保利透。自身のレーベル「ぐらもくらぶ」で『大大阪ジャズ』『二村定一 街のSOS!』など、自身でセレクトしたオムニバス盤をリリースしてきた彼が、多数の発掘音源企画をされている高橋正人氏監修のもとに新たな計画を実行に移すと聞きおよび、筆者は指定されたポリドール……じゃなかったユニバーサル・ミュージックへと向かったのである。

 なぜ、今回の取材場所がユニバーサル・ミュージックであったのか? それは、保利さんが、ここで、新たなCDの音源マスタリング作業を行っていたからだ。そのCDが12月11日に発売予定の『はたちのバタヤン大ヒットパレード「大利根月夜」』である。

 バタヤンこと、田端義夫は今年4月に94歳で死去。5月にはドキュメンタリー映画『オース!バタヤン』が公開されたこともあり、再評価の熱が高まっている大歌手である。

 バタヤンの戦後音源の多くはテイチクから発売されているが、実はデビューは1939年にユニバーサル・ミュージックの前身にあたるポリドールから。そして、現在も保存されているSP盤音源の多くは未CD化の楽曲。そのため、今回のCDは全46曲中、30曲が初CD化。そして、40ページのブックレットが付属する豪華仕様だ。これで定価3990円とCDにしては標準的な値段とは、涙が出る。

 しかし、やはり聞きたいのは、なぜ今、バタヤンなのかということ。確かに、バタヤンを懐かしむ世代におくる追悼CDという意味もなくはない。しかし、保利さんは、それ以上の意思を持っていた。それは、バタヤンをきっかけに流行歌を愛聴する人々をさらに増やしたいという思いである。

「このCDに収録された曲を聴いて“懐かしいな”と思うのは90歳以上の人たちでしょう。ホントに聞いてほしいのはそうではないのです」

 そもそも、SPレコード時代の曲を再評価する流れは、10年ほど前から始まったものだ。最初に対象となったのは、瀬川昌久さんによる戦前ジャズレコード。これは、『日本のジャズ・ソング』の形でシリーズで復刻されたことで、注目を集めた。これを契機として、SP盤時代の音楽に興味を持つ人が増えた。そして、インターネットでのYouTubeをはじめとするサイトの普及。まだ著作権のある曲目をアップロードすることの是非はともかくとして、これにより今までSP盤の音を聞いたことのなかった人が、簡単に雑音を含んだ特徴的な音を楽しむことができるようになったのである。そして、SP盤の音源は90歳以上の人にとっての懐かしい、過去のモノだけではなくなっている。今、初めて聞く人にとっては、流行している最先端の音楽も、過去のSP盤の流行歌もすべて新しい曲なのだから。

「自分は、雑音を生かした音作りをしていますが、SP盤の音を聞いて“これはよい”という人は増えてきていると思います。今回のバタヤンのCDも、これまでに聞いたことのない人が聞いてよさをわかってもらえばよいと思っています」

 もはや流行歌は新譜をリリースするのと一緒。そこに「懐メロ」という言葉は似合わない。このCDをきっかけに、流行歌もまた新たなムーブメントへと進んでいくに違いない。なお、それを見越しているのか、同日には『戦前オールスター・ヒット・パレード大全集』もリリースされる。これは、両方とも買いだな!
(取材・文/昼間 たかし)

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