萌えミリタリーブームの今だからこそ!? 『愛国とレコード』で知る“愛国ビジネス”の歴史

 昨今、ひとつのムーブメントとなっている軍歌。それは“右傾化”とか“ノスタルジィ”ではなく、温故知新である。

 そうした軍歌ブームの立役者である辻田真佐憲氏と、数々のSPレコード復刻CDで知られる「ぐらもくらぶ」が組んだ一冊『愛国とレコード 幻の大名古屋軍歌とアサヒ蓄音器商会』(えにし書房)が発売となった。

 そもそも版元のえにし書房は、彩流社の塚田敬幸氏が今年6月に立ち上げた新会社だ。これまでの目録には、傀儡政権研究本『ニセチャイナ』(社会評論社)で知られる広中一成氏の『語り継ぐ戦争 中国・シベリア・南方・本土「東三河8人の証言」』など、今、この瞬間に出しておくべき本がラインナップされている。出版も横文字を使ってスマートにビジネスライクに……という時代の潮流に一石を投じる期待の出版社だ。

 さて、そんな出版社から刊行された辻田氏の新著が『愛国とレコード』である。辻田氏は、7月に発売されたちまち増刷となった『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』(幻冬舎新書)の中で「愛国ビジネス」について記している。簡単に述べるならば、戦時下のイケイケドンドンな空気の中で、より国民精神やら国威発揚やらを煽って賞讃するレコードは売れに売れ、どんどんトンデモない方向へと進んでいったというわけである。辻田氏は、単なる回想や過去の検証ではなく、近年の萌えミリタリーブームとも絡めて、そのことを論じている。

 そして、今回の本では、愛国ビジネスの極地ともいうべき“時局レコード”でビジネスの成功を目指した名古屋市にあったアサヒ蓄音器商会のすべてを記しているのである。

 国際連盟の脱退に際しては、コロムビアが『連盟よさらば』を発売し、ヒットラーユーゲントが来日すれば、ビクターが『萬歳ヒットラー・ユウゲント』を発売していた戦前の日本。そんな中でアサヒ蓄音器商会が発売したのは、さらに過激な時局便乗レコードだった。

 ツルレコードをはじめ、山のようなレーベルを量産していたアサヒ蓄音器商会は、敗戦を待たずして消滅した会社である。後発ゆえ、メジャーレーベルに後れを取っていたこの会社が量産したのは、まさに時局便乗の尖った企画モノだ。

 満州事変の後にリットン調査団がやってくれば、『リットンぶし(認識不足も程がある)』という曲を発売する。

リットン卿、リットン卿
厳めしく半年かかって調査して
出来た報告書がこりゃどうぢゃ
認識不足も程がある

 その裏面に収録されるのは、『あらまあ認識不足よ(リットン程ではないけれど)』だ。

彼女のエロなウインクに 飛んでいったらやぶにらみ
あらまああなた認識不足よ
リットンほどではないけれど

 いくらなんでもバカにしすぎと思うだろうが、当時の日本はこんな企画が売れると判断される情勢だったのだ。かと思えば、五・一五事件で決起した将校たちが英雄視されているとみれば『五・一五事件 血涙の法廷(海軍公判)』なんてレコードも。これは描写劇、すなわち今でいうドラマCDなのだが、あまりにやり過ぎ。このレコードのせいでレコードにも検閲が行われるようになったという、いわくつきの一枚だ。

 さらに、当時は『乗切れ乗切れ非常時』『日本ファッショの歌』など、タイトルだけで「どうなってるんだ?」と感じるようなレコードが次々と発売されているのだ。

 でも、こんなレコードが売れたなんて馬鹿な時代だったと笑うことができるか。ブームに乗っただけの、ケチな親戚の家のカルピスのように薄い政治本が粗製濫造される現代と、そんなに変わらないと思う。

 なお本書で興味を持った人は、ぐらもくらぶから発売中のオムニバスCD『大名古屋軍歌』『續・大名古屋軍歌』もどーぞ。
(文/昼間 たかし)

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