羽海野チカの人気コミックの実写化! 神木隆之介主演『3月のライオン』に隠された“危ういテーマ”とは?

羽海野チカの人気コミックの実写化! 神木隆之介主演『3月のライオン』に隠された危ういテーマとは?の画像1映画『3月のライオン』公式サイトより。

 TVアニメーションが昨日最終回を迎えた、羽海野チカ原作コミックの実写映画化『3月のライオン』2部作の公開がいよいよ始まった。将棋の世界を舞台に、17歳のプロ棋士・桐山零が世代もタイプも異なる様々なライバルたちと闘い、また隣町で暮らす川本家3姉妹と交流することで成長を遂げていく青春ストーリーだ。主人公・桐山零に『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)、『バクマン。』(15年)の神木隆之介、さらに染谷将太、高橋一生、伊藤英明、加瀬亮……と人気俳優をキャスティング。自分の居場所を確保するために全力で闘わなくてはならない主人公たちのヒリヒリする葛藤が描かれ、将棋に興味がない人でも大いに共感できるドラマに仕上がっている。

 豪華キャストを束ねて本作を撮り上げたのは『るろうに剣心』シリーズを大ヒットさせた大友啓史監督。アニメ&実写版『ハチミツとクローバー』や羽海野がキャラクターデザインで参加した『東のエデン』などの実績のあるアスミック・エースがNHKを退職した直後の大友監督に打診し、『るろうに剣心』シリーズが完結した2014年ごろから本格的に始動。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』で瀬田宗次郎役を好演した神木を主役に起用した形となった。大友監督いわく「『るろうに剣心』を撮り終え、まだ神木隆之介のすべてを撮り切っていないように感じた」ことが起用理由だった。なるほど、剣術では天才的な強さを誇るものの、内面の脆さを抱える瀬田宗次郎は、『3月のライオン』の桐山零とどこか通じるものを感じさせる。

 子どもの頃から大人の俳優たちに交じって仕事をしてきた神木自身のプロフィールも、幼い頃から将棋を差し続けてきた桐山零の境遇と重なる。2歳からタレント活動を開始したキャリア充分な神木だが、今回は将棋盤を挟んで、豊川悦司、伊藤英明、佐々木蔵之介、加瀬亮といった演技スタイルの異なる実力派俳優たちと視殺戦を繰り広げることになる。森義隆監督の『聖の青春』(16年)ではギミックを排した、ストイックなまでの長回しで松山ケンイチと東出昌大の対局シーンが描かれただけに、『3月のライオン』はCGを多用した派手な絵づくりになるのだろうと思いきや、こちらもゴツゴツとした男臭い闘いの連続となっている。もともと大友監督はNHK時代に経済界を舞台に男たちの闘いを描いた『ハゲタカ』(07年)でブレイクし、『るろうに剣心』シリーズではキャスト本人に極力アクションをやらせた人。CGに頼らずに、俳優たちの潜在能力を引き出そうとするオーソドックスな演出が今回も功を奏したと言えそうだ。

 前編はよく言えば手堅く、辛めに言えば原作コミックのような遊びがないのが難点だが、4月22日(土)公開の後編は原作にないエピソードも盛り込み、映画独自のクライマックスへと怒濤の展開が待っており見応えがある。闘っているのは零だけでなく、家族の温かさを知らずに育った零にとって桃源郷のように思えていた天真爛漫な川本家3姉妹も闘うことを余儀なくされる。次女のひなた(清原果耶)は学校で理不尽なイジメの標的にされ、母親代わりとなって川本家を支えていた長女のあかり(倉科カナ)、さらには末っ子のモモ(新津ちせ)さえも、つらい闘いを強いられることになる。

 後編のキーパーソンとなるのが、川本3姉妹の実の父親である川本誠二郎(伊勢谷友介)。この誠二郎はあかりたちの母親を棄てて、愛人と共に家を出ていった超無責任男。駆け落ち先でも再びトラブルを起こしたらしく、猫なで声で川本3姉妹に擦り寄り、あかりたちに都合よくたかろうとしている。反省顔で近寄ってきては、疑うことを知らない善良な人間の生き血をチューチュー吸う恐ろしい寄生人間だ。ルールの決まった将棋の世界では腕の立つ零だが、血の繋がりを楯に3姉妹にまとわりつく誠二郎には大苦戦するはめに。二枚目エリート役を演じることの多い伊勢谷友介のサイコーのクズ人間ぶりは、後編の大きな見どころと言って過言ではない。

 肉親と幼い頃に死別している零にとって、血縁を口実に川本家に寄生しようとする誠二郎は到底許すことができない。クズ人間・誠二郎を容赦なく口撃する零だが、実は将棋がこの世界になければ零をはじめとする棋士たちも、みんな似たり寄ったりの存在である。プロ棋士になれたから良かったものの、そうでなければ生活能力はまるでない。原作とは異なり、映画版の零は通学先の高校では担任教師・林田(高橋一生)以外とは誰とも交流できずにいる。自分自身がダメ人間と紙一重であるがゆえに、余計に零は誠二郎を厳しく責め立てる。ひとつの芸事を極めて生きていくことの喜び、そして危うさの両面が『3月のライオン』には隠されている。
(文=長野辰次)

『3月のライオン』
原作/羽海野チカ 脚本/岩下悠子、渡部亮平、大友啓史 監督/大友啓史
出演/神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、前田吟、高橋一生、岩松了、斉木しげる、中村倫也、尾上寛之、奥野瑛太、甲本雅裕、新津ちせ、板谷由夏、伊藤英明、豊川悦司 
配給/東宝、アスミック・エース 前編3月18日(土)より、後編4月22日(土)より全国ロードショー
(c)2017映画「3月のライオン」製作委員会
http://www.3lion-movie.com

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