【秘録的中編ルポルタージュ】

初単行本『ボコボコりんっ!』女性マンガ家・知るかバカうどんの衝撃と圧倒「私、つきあった男には必ずボコられるんです」

 インターネット。それも、ふたばのお絵かき掲示板での偶然の出会いが、知るかバカうどんを生み出したのだ。いや、もしも、両親が離婚した後、彼女自身がインターネットにハマるという偶然がなければ、今の知るかバカうどんは存在しなかった。むしろ、彼女の作品に登場するような、覚せい剤やらキメセクやらにはまり、社会の最底辺で破滅していく人生以外に道はなかったかもしれない。

初単行本『ボコボコりんっ!』女性マンガ家・知るかバカうどんの衝撃と圧倒「私、つきあった男には必ずボコられるんです」の画像618禁作品では定番となっているキメセクも、知るかバカうどんは独自の視点で描き出す(『ボコボコりんっ!』知るかバカうどん「はぴはぴハピネス」より)
初単行本『ボコボコりんっ!』女性マンガ家・知るかバカうどんの衝撃と圧倒「私、つきあった男には必ずボコられるんです」の画像7誰もが探す「ここではない、どこか」。けれども、楽な道を求めるものには破滅しかない(『ボコボコりんっ!』知るかバカうどん「はぴはぴハピネス」より)

 けれども、幸運はこれだけではなかったことを、続く質問は明らかにしていった。

「作品の話だけど、実用性はないよね。何度も読み直して見たけどオナニーに使うのは無理。あなた自身は読者を勃起させたり、濡れさせたりすることは意識しているのかな」

 本人も、編集者も気づいているであろうことだったのか。知るかバカうどんは爆笑してから、答えた。

「無理ですね。無理やろうなと思ってるけど、無理だけど頑張ってやろうと思って描いたのが<JCボコボコりんっ>……あれが一番まだ……」

 知るかバカうどんが挙げた「JCボコボコりんっ」は、電車で見かけたキモヲタをバカにしながら盗撮したり、わざと相手の大人に手を挙げさせ、その様子を盗撮して恐喝するなど性悪すぎる少女2人組の物語だ。挙げ句、生きた犬に火をつけて焼き殺して笑い転げていた2人は、犬の飼い主であった「わしらエイズや」という、ホームレスたちに殴られ輪姦される。少女たちの行為が犯罪レベルかつ弱い者イジメだからであろうか、ほかの作品に比べると輪姦シーンから得られるカタルシスは極めて高い。

「最初に商業誌で描かせてもらったのが収録作の<金のたまごで親子丼>です。そこで、顔をボコるシーンを描いたら中沢さんはオッケーをいってくれた。だから、あーいけるんや、載るんや、載ったわマジでーもっとやったろうと思ったんです。それで、やったらあかんねんやろうなーと思ってることをやらしてもらってます。どれも、やったらあかんねんやろうなと思って描いたんですけど、描きすぎた結果、ヌキどころが自分でもわからなくてダメやろうなと思って反省してます。これからは、改善したいと思っています……」

 急に声が小さくなり、下を向いて膝に抱いていたトートバックを抱きしめた。それまで黙って話を聞いていた中沢が、掲載誌『コミックMate L』編集長として静かに話し始めた。

「いや、『コミックMate L』にヌキどころなんてあるんですかねえ」

 場にいる全員に問いかけるような口調だった。語り口は柔らかいが、経験を重ねた編集者らしく、全員がハッと耳を傾ける迫力のある声だった。

「……逆に、ヌキどころの意味が直接性的なヌキどころじゃなくてもいい。人間、痛みも性的な欲望に変わることがあるわけだから、そっち重視でいいんじゃないかと思って編集しているんですけどね」

「これで、お前はヌケるか……と読者に挑戦しているように見える」

「<おさんぽJK♥いちごちゃん>の話じゃないけど、あんだけ性悪な女がいて、ボコボコにされるところを見るだけで、読者はヌケるんじゃないかという気がしなくもないです。気持ちいいじゃないですか、気持ちいいと思いつつ実際に性的欲求も満たされているんじゃないかと思って、かんか掲載しています」

「掲載するに値する何かを持っていると考えればいい?」

「うちもどこもそうなんだけど、総合美少女誌というジャンルで本をつくっているじゃないですか。いい加減、読者も飽きているんですよ。同じようなネタで同じようなキャラクターが出てきて同じようなことをする。それだと、うちは、某ナントカみたいな業界大手にとうてい勝てないですよ。だから、何か違うところにいくしかないかな思っています。最終的に生き残りを賭ける上で、ちょっと暴力性とかを重視した編集はしています。いつも『コミックLO』がロリで糾弾されているけれど、あの程度で糾弾されていいのか、それこそ『コミックMate』が糾弾されなきゃいけないと思ってるんです」

「そこに、知るかバカうどんがやってきたときには、待ってました! と思った?」

「そこには、また経緯があるんです。もともと、ウチの社員で電子配信を担当していた技術者が彼女のファンで、ずっと同人誌を買っていて、絵のレベルが上がっていくのを見ていたんです。『そろそろ、うちの本でも~』という彼の強い推薦もあって、それで『ウチの雑誌で描きませんか』とメールを送ったんですが、返信がなくて……。商業誌には興味ないかと思っていたんですが、迷惑メールに入っていたようで、コミケ後に『前にメールを送ったんですが』と改めて連絡したら『メール届いてないですよ』って」

 こうして、2014年12月に知るかバカうどんは「金のたまごで親子丼」を発表して、プロデビューを果たした。彼女の語る「自分史」からは、たまたま藤崎に出会った運のよさや、たまたま出版関係者が同人誌を読んでいたことを幸運をだと思うかもしれない。だが、私は「幸運でしたね」などと月並みな言葉を使ってはならないと思った。なぜなら、眼前に座る知るかバカうどんの佇まいからは、彼女が決して偶然掴んだ幸運によって浮かんできたのではないと感じさせる凄みがあったからだ。最初の出発点に、絵を描くことによって、誰かに褒められたいという漠然とした希望があったのは確かだろう。けれども、偶然も幸運も湧いてでてきたものではない。知るかバカうどんの中に、それを掴んだ理由があるのは確かだった。確かなのに……私はその正体を見極めかねていた。

 そのことに気持ち悪さを抱えたまま、私は知るかバカうどんの未来を尋ねることにした。デビュー単行本『ボコボコりんっ!』に始まる、知るかバカうどんの作品が、いつも女の子がボコられる様式美を繰り返すマンネリに終わることはないだろう。ともすれば、エロマンガではない、まったく新たなジャンルへと広がっていくことになるのではないか。ならば、知るかバカうどん自身は、これから描きたい作品を、どのように思い描いているのか。それを尋ねたところ、下を向いて恥ずかしそうにいった。

「“いちゃラブ”にもう一度、挑戦したい……」

 実は、既に担当編集の中沢は、知るかバカうどんに新たな機会を与えようとも目論んでいた。4月に単行本が発売されるにあたり、専門店特典でエロシーンだけの描き下ろし小冊子を制作した。暴力がなくても作品を描けると思った中沢は、知るかバカうどんに、ごく普通のエロマンガを描いてみないかと依頼した。そして、ネームが上がってきた。

「いちゃラブなのに、なぜかゲロなんですよ……」

「ダメでした。いちゃラブじゃなくなったー。どこにいったら、ええんやろ」

 なぜ、ゲロを描いてしまったのか。そう尋ねると、素の表情で口を開いた。

「自分が思ういちゃラブは、単に性行為するものじゃないと思うんですよ。ゲロを塗りたくったり食べたりとか、ウンコ食べたり、オシッコ飲んだり、なんというか、痛み分けだと思うんですよ。そうじゃないといけない、と思ってるんですよ。それは……いちゃラブじゃないんですか?」

 真顔での語りに、これまた返答に困っていると、中沢が呟いた。

「うどんちゃんの、愛の表現は、最終的にすべてわかり合わなくちゃいけないんですよ」

君に愛されて痛かった

君に愛されて痛かった

近年まれに見る傑作では??

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