【秘録的中編ルポルタージュ】

初単行本『ボコボコりんっ!』女性マンガ家・知るかバカうどんの衝撃と圧倒「私、つきあった男には必ずボコられるんです」

「せや……『バトルロワイヤル』。あと、774さんのサイトは見てました。あの人、今は『NARUTO -ナルト-』のいちゃラブ本とか書いてるけど、出身はふたばちゃんねるだったんです。小学生の時に、ハアハアしゅごい~っていいながら見ていました」

 初めての時の感動を思い出すかのように、また笑顔を浮かべた。その楽しそうな姿に、私は次の言葉を迷った。「774」とは、一時期インターネットで注目を集めていた作者の名前である。この人物が描いていたのは、乳房や性器を破壊される小学生や、全裸で体中に卑猥な落書きを施されて市中を引き回される少女といった、極めてアブノーマルなものばかりであった。扱うテーマもさることながら、絶望的な状況で、少女たちは苦悶の表情を浮かべながら必死に耐え、わき上がる恐怖と戦う。単に苦しむとか泣き叫ぶのとはひと味違う描き方が774の持ち味だった。そんな独特の嗜好ゆえだろうか、次々と投稿される観た者を男女の別なく、苦痛に耐える少女の側に感情移入させてしまう奇妙な力があったのである。匿名性の高い掲示板などでは、投稿された作品が次々と転載され、熱狂を集めていた時期があった。

 しかし、それも既に10年あまり前のこと。いつしか774の作品が投稿されることはなくなっていた。本人も飽きたのかと思っていたが、まさか二次創作でいちゃラブへと移行していることには、驚いた。しかし、それ以上に驚いたのは、そうした絵を小学生が見て、興奮をしていたことであった。禁忌の妄想が、頭に浮かんだ。どんな言葉で聞こうかと迷い、率直に尋ねてみた。

「その頃から、オナニーを?」

「してないですね!」

 野暮な質問だと思った。私は気恥ずかしくなって下を向いた。上目遣いで、知るかバカうどんを見ると笑っていた。なぜだが、慈母の微笑みのように見えた。

 テーブルの上には、普段の取材では感じることのない空気が流れていた。知るかバカうどんが、嘘のない笑いをしながら、口に出すことを躊躇しそうなことを、まったく臆することもなく語っていたからであった。最初は少しばかり緊張していた気配はあった。けれども、心は冷静なように見えた。むしろ、そうした質問にまったく屈託なく答える彼女に、私はとまどいを覚えていた。むろんTwitter上での発言のように、半ば精神が壊れたかのような語りをするとは思っていなかった。しかし、彼女の発する言葉は、想像以上にしごく真っ当なものに見えたのだ。決して部数の多くないエロマンガの世界とはいえ、彼女は初めての単行本で大きな人気を獲得している。そのことはもっと誇ってよいはずだ。なのに、知るかバカうどんは、とても控えめだった。それがまた、彼女自身の美しさとなって現れているように見えた。なぜ、売れているのに、こんなにも冷静でいられるのだろう。そのことが、わからなかった。わからないからこそ、もっと、知るかバカうどんという人物のすべてをむき身にしなければならないと思った。

《知るかバカうどん自身にもっと迫ってみたい》――その焦燥感を一段と強くさせたのは、次の質問だった。

「今回の単行本は、タイトル通りに女の子をボコボコに殴るシーンがいっぱい出てくるよね。pixivには、女の子がリストカットしている作品や四肢切断も。本当に好きなシチュエーションはどれなの?」

「えっ、知的障害者の暴行が一番好きかな」

 破顔という言葉が似合う、本当の笑顔だった。日常の生活では決して話すことができない、大抵の人が「キモい」と思う特殊な嗜好を、口に出して話すことができた喜び。同時に、世間では唖然とされそうな嗜好を人に話した時に感じる、マゾヒスティックな快感も混じっているようだった。

「初っぱなの収録作が、知的障害者による暴行。この出版社は大丈夫なのかと思った」

「自分もそう思いましたよ」

「pixivでは東方キャラを切ったり殴ったりしているよね。好きなキャラは誰?」

「東風谷早苗とフランドール・スカーレット」

「当たり前だけれど、どちらも可愛いキャラだよね。可愛いものが好きなのか、それとも可愛い者を壊すのが好きなのかがわからない」

「可愛いものが好きなんです。可愛いものが壊される姿に興奮することは、自分の絵でも他人の絵でもありません」

「じゃあ、Twitterのアカウントの画像がマイメロディなのは、純粋に好きだから……いつかマイメロディの内臓が飛び出てきたりすることなんてないんだね」

「そうです。描いているのが好きなんです。描いていて、ああヤバイヤバイって思ったのは知的障害のだけ……」

 身体を揺らして、わずかに微笑みながら「ヤバイヤバイ」と語る姿にぞくりとした。瞬間、知るかバカうどんが、本気で興奮して言葉を放ったように見えたからだ。単行本巻頭の収録作であり、今回のインタビューの発端ともなった「嘘もつかない純粋な存在」──知るかバカうどんが、真面目な眼鏡の少女が知的障害者の同級生に暴行される悲惨な物語を、興奮しながら描いたことは、自ずと理解できた。単に、そうしたシチュエーションが好きだからなどという甘いものではない。彼女は、知的障害者に暴行されるヒロインの側に自己を投影していたのだ。そんな異常な物語を「ヤバイヤバイ」と思いながらも描かずにはおれない自分。さらには、描きながら興奮してしまう自分自身を「ヤバイヤバイ」と思う興奮のスパイラル。性的なものを超越した地平へと、知るかバカうどんは到達していたのだ理解した。

 ネタやキャラづくりではなく、真っ正直に欲望を開陳する姿に、どんな言葉を返せばよいのか、ますますわからなくなった。

 知るかバカうどんの人生の道筋が、次第に明らかになってきたのは、単行本に収録されたそれぞれの作品への言及をはじめた時だった。表紙にも使われている「おさんぽJK❤いちごちゃん」。この作品で、ヒロインの少女は、絵に描いたような自分語りしかしない、狭い世界に生きているキモヲタを手玉に取り、待機室のロッカーから溢れるばかりの贈り物を得ている。

 そんなキモヲタ相手に「お兄ちゃん」と媚びを売りつつ、裏では「あいつら脳みそ金玉」とまで嘲笑している少女は、その代償としてキモヲタに暴行されることになる。単に暴行されて終わるのではない。その姿がネットの海へと拡散され、永遠に終わることのない地獄の中で生きるしかなくなったことを示唆して、物語は幕を閉じる。前半、多くのページを割いて描かれるキモヲタへの嘲笑。そして、キモヲタとは相反する悪そうな男とプライベートの性行為を楽しんでいる描写。そのどこに、興奮をすればよいのか。それを尋ねたところ、知るかバカうどんは、それまでと変わらぬ態度で自らの体験を語り始めた。

「もともとJKリフレで働いていたんです。1カ月ほどですけど。まだ、摘発される前で、女子高生がフツーに働いていた頃です。自分、18歳で入ったんですけど、フツーにええ感じの仕事やったんです」

 彼女は、そこで一人の少女に出会った。

「めっちゃ人気な女の子がおって、わんさか両手いっぱいにお土産をもらって帰ってくるんです。自分は、タダでモノをもらうと後が怖いって知ってたんで、絶対に嫌だったんです。いくら、買おてあげるっていわれても、ご飯までで断ってた。でも、その子は甘えるのがすっごい上手で、近所のなんばパークスとかで、片っ端から、めっちゃ買おてもらっていて……」

 ある時、その人気の娘と会話した。その時の会話を、知るかバカうどんはギャルっぽい口調で再現した。

《なんで買おてもらえへんのー?》

《いやいや、怖いから》

《なんでやん、ちょろいやん、ぜんぜん、い~やん。うまいこといったら、買おてくれるや~ん》

《そうでなくて、その後がこわいやーん》

《ぜんぜん、わからへ~ん?》

 まったく話はかみ合わなかった。一緒に話を聞いていた少女たちもそうだった。知るかバカうどんは率直に「コイツ、アホやなあ」と思った。けれども、それと同時にまったく別の感情が生まれていた。

「やけど、強いな……」

 男に貢がせまくることに、罪悪感もなければ危機感もない。そんな少女に年齢を尋ねたら高校1年生だった。そんな歳にもかかわらず、キモい男たちに媚びを売り、手当たり次第に貢がせる手練手管に、知るかバカうどんは思った。

「才能やろうな、将来は立派なキャバ嬢になるやろうな」

 今はどうしているかもわからぬ少女のことを語りながら、知るかバカうどんは、見下すでもなく、嫉妬するでもない顔をしていた。

君に愛されて痛かった

君に愛されて痛かった

近年まれに見る傑作では??

初単行本『ボコボコりんっ!』女性マンガ家・知るかバカうどんの衝撃と圧倒「私、つきあった男には必ずボコられるんです」のページです。おたぽるは、漫画インタビューエロマンガマンガ&ラノベの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

PICK UP ギャラリー
写真new
写真
写真
写真
写真
写真

ギャラリー一覧

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!