西澤千央のベイスターズ偏愛コラム

【筒香のお尻】第4回「応援してるけど信用はしてない」~古参、愛のメロディ~

 ユニフォームも着てない、帽子もない、ただの地味なおじさんとおばさんの我々は、ノリノリのカープファンで埋め尽くされる3塁側スタンドに着席しました。

「ハマスタ来るのいつぶり?」

「そうだな、オープン戦で中日に1回6点くらい取られてベンチで山下(大ちゃん)が目ぇ潤ませてて、こんなとこ二度と来るか! って言った以来だな」

「いや、違うな……DeNAになって初めてのゴールデンウィークに、たまには見に来てやるかと思って行ったらすごい行列で、こんなとこ二度と来るか!って言った以来だ」

 それなのに、

「マツダスタジアムには行ったことあるよ。石井琢朗の守備固めを観に行った」

 なんかもうよくわからないですけど、とにかく「ベイ古参、それはめんどくさい」を体現したような男なのです。

1605_baystars0601.jpgベイスターズラガーうまい……。

 この日はカープが男気黒田、対するベイスターズの先発は井納。黒田の立ち上がりを攻めて先制、しかしすぐに追いつかれるというアツい投手戦の様相。割とベイスターズが押している展開だったように思いますが、古参の口からはネガティブワードしか出てきません。

 ヒットでつないで塁が埋まれば「ダメだ。次の回に絶対点取られる」。井納が三振を奪えば「三振なんか取ったら、調子に乗って次のバッターには気の抜けた球を投げるぞ」。よくもまぁそこまで最悪な状況ばかりが頭に浮かぶのか。長く長く裏切られ続けていると、人間はこんなにもひねくれてしまう、そんな見本がここにいました。最終的には黒田の元に内野陣が集まるたびに「黒田ァ! 相談するようなバッターじゃないぞ!(※ネクストバッター石川雄洋さん)」と叫び、近くにいたカープファンのおじさんに「……相談させてください」と失笑される始末。

 観戦中、従兄の妹、つまり私の従姉からこんなLINEがきました。「お兄ちゃんと野球観に行ってるんだって? ごめんね、うるさくて恥ずかしいでしょ……今日は誰を佐渡金山送りにした?」。佐渡金山送り……今日の佐渡金山送りは……「白崎だ」と従兄。「今日は白崎を叱咤激励しに来たのに、なんでスタメンじゃないんだ!」あぁめんどくさいな!!

 素直に愛を表現できない、哀しきベイスターズ古参。脳内で選手を何人も佐渡金山に送り島流しにし、チームを何度も解散させ、ようやく心の平安を保ってきたのでしょう。

 9回表、5点差、2アウト。それでも「俺は信じない。応援はするけど絶対に信じない。ここから打ち込まれる」。最後のバッターの打球が高々とセカンド方面へ上がると「石川! 石川! 俺は! 信じな……石川ァァァァ」。

「……まぁ打ってサードに走るようなわけのわからない場面を見させられることはなくなったな」

 勝ってもなお、この調子の古参。「田代が監督やってくれたら、どんだけ負けたっていいんだけど、そういうファンはもう死に絶えただろう」山崎ユニフォームを着た若い親子連れを見ながら、そうつぶやきました。いや負けたら絶対文句言うでしょ。

 従兄も私も年を取り、田代も山下ももういない。だけどハマスタに来ると、なんとなくあの時の気持ちに戻ってしまう。好きで選んだこの道、技と力と心意気。好きで選んだベイスターズファンの長く険しい茨の道を思い、ちょっぴり涙が出そうになりました。
(文=西澤千央)

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