実写映画レビュー

【実写映画レビュー】研ぎ澄まされた“ふつう”が顧客を満足させる、『バクマン。』の王道とは…?

 本編中、最大の原作改変が、ヒロイン・美保のパーソナリティ変更だ。まったく別人になっていると言っても過言ではないが、これも「顧客満足の最大化」で説明がつく。
 原作では萌えアニメのヒロイン並みに「美少女・優等生・超純情・オタク受けするロリ私服・最初から主人公にベタ惚れ」であり、そのまま3次元に落としてしまうと、原作を経由していない、言うなれば三茶に住むホットヨガ女子に不快感を催させてしまうのは必至。そこで映画版の美保は、三茶女子の機嫌を損ねない程度の、ほとんど人格がないと言ってもよいアイコン的な存在に丸められた。パーソナリティの見えない記号としてのマドンナなら、彼女たちの癇を刺激しない。

 クライマックスにおける美保の振る舞いは、むしろ三茶女子に媚びていると言ってもよいだろう。原作とまるで違うのだ。連載中の無理がたたって倒れる最高。その時、原作の美保の取った行動が「オタク少年の夢」だとすれば、映画版の美保が取った行動は「女子の現実的選択」だった。完全に真逆である。
 女子の共感を得るには、女子を不快にさせてはならない。顧客満足の最大化とは、そういうことである。三茶の女と付き合いたいなら、三茶の女が満足してFacebookにアップしたくなるカフェやバルを食べログで調べ、提案し、酷評を受けたら改善し――というPDCAサイクルを、面倒臭がらずに徹底すべきなのだ。

 しかし、である。世の中にはパクチーをバケツで食べたい物好きや、フェラーリのマニュアルクラッチをもてあそびたいカーマニアや、オタサーの姫に仕えたい奇特な御仁も、少なからずいる。そういう人たちにとって、山田孝之演じる「ジャンプ」の編集者・服部が劇中で最高と秋人に発した言葉は、複雑な意味を帯びてくる。

「人真似じゃない、君たちだけの王道マンガを描いてほしい」

 ここで言う“君たちだけの王道”とは、「ふつう」に三茶の女のことなのか? 「歪」を極めたオタサーの姫のことなのか? ここに「ものを作る/創る」ことの本質が込められている気がしてならない。つくづく、メタレベルで語りがいのある作品である。
(文/稲田豊史)

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