実写映画レビュー

【実写映画レビュー】研ぎ澄まされた“ふつう”が顧客を満足させる、『バクマン。』の王道とは…?

「ふつう」には、最大公約数的な需要がある。パクチーよりキャベツ、フェラーリよりカローラ、オタサーの姫より三茶のOL。三茶のOLは深夜にかまってツイートを連投しないし、LINEを既読スルーしただけでリストカットをほのめかしたりもしない。オタサーの姫と比べれば、ずっとカロリーを使わないでお付き合いができる。多くの男性にとっては。

 最大公約数を狙うというビジネス的な発想が鼻につくだろうか? しかし、そもそも原作『バクマン。』の成分の半分くらいは、顧客満足を最大化するための方法を説いたビジネス本である。顧客とはもちろん読者のこと。マンガを「芸術」ではなく、毎週定期的に生産・納品すべき「プロダクト」として捉え、その品質を向上させる方法を、ロジックで定量的に解説しているのが、本作の真骨頂だ。これをビジネス的発想と呼ばずして、なんと呼ぼう。

 原作における最高と秋人は、毎週の連載において、徹底的な研究・調査のうえでプロダクトを作り上げ、読者の反応を次の執筆回へと確実にフィードバックし、作品をブラッシュアップしてゆく。これは品質管理用語でいうところの、「PDCAサイクル」(Plan/計画→ Do/実行→ Check/評価→ Act/改善)というやつに近い。PDCAサイクルのメリットは、一周するごとに螺旋のごとく品質が向上していく点にある。

 映画版『バクマン。』は原作の一部しか切り取っておらず、かつ尺が2時間しかないので、最高と秋人によるPDCAサイクルはあまり描かれないし、描けない。
 その代わりに大根監督は、自らPDCAサイクルを実践した。脚本を実に20稿以上書き直したのだ。プロデューサーをはじめとしたスタッフとの間で交わされた評価と差し戻し、ディスカッション。改稿に次ぐ改稿。20周以上のPDCAサイクルを経て、脚本はブラッシュアップされた。考え尽くされた、「ふつう」の形に。
 つまり、映画『バクマン。』は原作の物語を忠実に映像化してはいないが、原作が提唱する「顧客満足を最大化するためのメソッド=PDCAサイクル」を忠実に実践して作られたプロダクトである。映画製作というメタなレイヤーにおいては、間違いなく「原作どおり」の作品なのだ。

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