テニミュとは壮大なる母性本能 ~The End~ ~男が観てみたテニミュ青春☆観戦記~【Part5】

「アイツ、今頃どうしてるかな…」と桃城が空を仰ぎ見る。すると、舞台にリョーマが1人で登場。後ろを振り返る。場所は空港のようだ。リョーマはまた旅立つ決意をしたのだ。「ありがとう 笑ってくれて ありがとう 叱ってくれて ありがとう 支えてくれて ありがとう 愛してくれて」と小越王子の口から感謝の気持ちを伝えるソロ曲が始まる。会場全体を隅々まで見渡し、愛おしそうに歌うリョーマ。本公演の主人公役であり座長である小越の口から何度も優しく放たれる「ありがとう」のフレーズは、まさに青学の仲間や戦ってきたライバルたちへでもあり、大千秋楽へと向かう2ndシーズンの公演を戦い抜いたキャストとファンに対する感謝のダブルミーニングだ。最後の最後に三ツ矢雄二作詞の歌詞に感動させられるとは…! 何だか悔しいです…! これにはファンも涙腺決壊。大千秋楽では更なる大きな意味を持って、響いたことだろう。

 心を込めて歌い終えたどこか寂しげなリョーマが舞台を去ろうとすると、「越前…!」と彼を呼び止める声が。その声は青学の手塚国光だった。すると、全キャストがリョーマの前に集結し、「勝負だ!」とラケットを向ける。鳥肌。これは現実なのかリョーマの心象なのかは分からない。ただ、仲間たちとの強い結びつきを感じさせるシーンだ。

 仲間たちからラケットを投げ渡されると、旅たちの寂しさを吹っ切るように「みんな…まだまだだねぇ」と最後の生意気フレーズから、全員で“THIS IS THE PRINCE OF TENNIS”を全員で力一杯歌った。「アイツがテニスの王子様ぁ~!」と一緒に歌う筆者。テニスの王子様は越前リョーマしかいない。この公演で筆者は確信したのだ。

 四天メンバーによる明るい曲や、“鎬を削る者達”の力強い曲(この曲をラケットを中腰で機敏に踊る様が部活動っぽくて好きだった)とメドレーが続き、ついにここで閉幕。

 そしてカーテンコールへ。4時間近い時間を精一杯踊り切ったキャストたちが次々と登場し、挨拶していく。どのキャストも晴れやかな顔だ。皆、一礼しながら清々しい表情で観客席を見渡していく。大きな拍手と感動に包まれるなか、キャストが一列に並び、「ありがとうございました!」と礼をする。よくぞ戦い抜いた。常人とは思えぬ凄まじい戦いだったぞ、中学生たちよ。さすが全国大会決勝は違うな…。心より拍手を送った。自分にも。こうして、幕が下がるのだった。

 筆者はこの光景を観ながら思ったのだ。ホモだなんだと書き立てたが、これは人の成長の物語なのだ。純粋な気持ちになっていく。しかし、やはりそれだけでは女性ファンたちの凄まじい熱の入れように説明が付かない。恋愛とも違う、アイドルにキャーキャー言っているだけでもなく、彼女たちが全身で愛を表現し、頬を赤らめ涙しながら、キャストたちの成長を見守るこの状態は……見守る……見まm……

……そうか、これは「母性」なのだ。

 彼女たちが、キャストやキャラの恋人になりたいとか「スキー! 愛してるー!」といった、もう恋愛感情レベルのそれではない。母性の域である。舞台を温かく見守るその視線は、成長した“我が子”を見守る“母親”のようだ。これはテニミュ女性ファンの年齢に関係なく、青春まっただ中で苦悩し成長する少年たち(キャストたち)の物語を応援し、叱咤激励する。言ってみれば、テニミュとは強力な「母性デトックス装置」だったのだ。

 すると、再び幕が上がる。おお? カーテンコールは終わったのにと動揺していると、大人数のキャストたちがが再び舞台いっぱいに一列に並んでいる。越前南次郎役の森山栄治が仕切りながら、最後の挨拶が始まった。役を解き放たれたキャストたちから、生き生きとした表情。この21日の公演で、越前南次郎役の森山栄治は一足先に千秋楽を迎え、テニミュ初演時の桃城役だった森山は久しぶりに帰ってきた舞台と力強く成長した後輩たちを見て、「テニミュっていいですね!」と映画評論家の水野晴郎ばりのセリフで最後を締めた。「ありがとうございました!」という言葉が何度も繰り返される。なんて清々しいのだろう。

 このまま終わるかに見せかけて、この日はさらにもう1つサプライズ演出が。9月21日の夜の部で通算500公演の出演を達成した越前リョーマ役の小越勇輝を祝い、青学の大石・手塚・不二が前に出て、おもむろに着ていたジャージを開ける。そこにはゼッケンのように張られた「祝」「500」「回」の文字が現れ、これには客席からも大きな歓声が上がり、大喜び。これには小越も何が起こったか分からず、ステージ手前からしゃがんで3人の姿を確認。ほかのキャストたちもとびきりの笑顔だ。しばらくそのまましゃがみ込んで、その光景を目に焼け付けるように動かなくなる小越。そして、笑顔になる。

 2011年の2ndシーズン開始より、約4年間にわたって主人公のリョーマを演じてきた小越勇輝。2003年の初演以降、多くのキャストが出演したテニミュの中でも最多出演回数を誇る「プリンス・オブ・テニミュ」が、500回という偉業を成し遂げた。多くの試合が行われたロングラン舞台のハードさはもちろん、キャストの入れ替わりや演出の進化など、喜びだけではなくさまざまな苦労や葛藤があったであろう濃密な4年間を駆け抜けてきたのだ。何というの激しい戦いの軌跡だ。筆者の4年間を思い出したが、プリンスとのあまりの落差に考えないことにした。キャストによる小越の胴上げが行われ、幕を閉じた。

 全国大会優勝の達成感と卒業の切なさ、2ndシーズンのキャストとしての万感の想いを感じ、筆者はこの壮大なミュージカルのヴォリュームを噛み締めていた。ついにこれで終わりか……と感傷に浸たれると思いきや、そこからまた幕が開く。

え? え? なになに!? まだ開いちゃう!?

 キャスト全員が再び舞台に登場し、もう1発テンション高めの曲がスタートする。ま、まだあんのか! 小越プリンスの500回出演を祝ってキレイな終わり方だったでしょ! もう十分でしょ!

 と思うも、大石役の山本一慶が“祝”の文字を付けたまま元気いっぱいに踊る姿が何とも可愛らしい。キャストも観客もその姿に大爆笑だ。何だー、そう来るのかー、一慶の笑顔が可愛いから許すよー。長時間の公演にガタがきていた老体にムチ打って楽しむことにした。「軋むテニスシューズの音を覚えていてね 弾んだテニスボールのラリーを覚えておいてね」と大千秋楽とキャストの卒業を匂わす歌詞も相まり、会場に大きな感動を呼んでいた。が、また始まった。

「頑張れ負けるな必ず勝てッ!」

 ……おおい三ツ矢雄二! ド直球作詞の真っ向勝負、最後の最後までやるか! あらゆる意味で“強過ぎる”フレーズに元気いっぱい耳を陵辱され、動けなくなる筆者。何でやっとすべての戦いが終わったのに、またキャストも観客も次の戦地に強制送還するんだ! ま、まだやんのか! なんか感動に浸ろうとしてた雰囲気がブチ壊し! さっき褒めたの帳消し!

「頑張れ負けるな必ず勝て」

 何ともシンプルで分かりやすく、資本主義を具現化するようなフレーズである。世知辛い愛なき世界(?)を生きる人々に送る最大限のエールであることも分かる。しかし、筆者の現実カムバック感はスゴかった。長き戦いの果てに見えた希望のような“絆”に心を打たれた後、テニミュは「まだ戦え! 常勝しろ!」とファンを戦地へと見送った。テニミュファンは戦い続けろというのか。そういう運命なのか。ほっこりして涙ぐんでいたら、突然アントニオ猪木のビンタを食らい闘魂注入された気分だ。床に倒れ込んだボロボロの筆者に対して、テニミュが「元気ですかー!」と舞台の上から叫んでいる。何というストロング・スタイル。

 テニミュは正真正銘ストロングなスポ根ミュージカルだったことが最後によく分かった。そして、キャストのキラキラや可愛さに癒されるだけでなく、男の子の友情と友情にキュンキュンする。テニミュとは、壮大な母性の集合体だったのだ。ちなみに、その後にキャストからの「セイ!」の掛け声から始まった“定番”のコール&レスポンスは、「イエッサー!」「ほいほい!」などといった難解なフレーズが飛び交い、ついていけなかった。

 そして、筆者は今泣いている。この原稿を書いている間に、日本人初の全米オープン準優勝を成し遂げたプロテニスプレイヤー錦織圭選手がマレーシア・オープン、楽天ジャパン・オープンと2週連続のツアー連覇という快進撃が報じられた。人目もはばからず感動の涙を流していた錦織選手。天と地ほどの話のレベルの差だが、原稿を書き終え、錦織選手とともにコートに大の字になって泣いた。

 後は、11月に開催される2ndシーズンのキャストによる最後の大舞台、ドリライ(ドリームライブ)で“テニミュ肩”になるだけだ。チケットはないが、きっとテニスの神様が導いてくれるに違いない。そう、遠いグランドスラムに想いを馳せ、夜空を見つめているのだった。

それでは、アデュー!
(文/ノグチアキヒロ)

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