テニミュとは壮大なる母性本能 ~The End~ ~男が観てみたテニミュ青春☆観戦記~【Part5】

 2014年9月21日、TOKYO DOME CITY HALLは白い光に包まれていた。青春学園中等部(以下、青学)と立海大附属中学校(以下、立海)によるテニスの全国大会決勝戦は、2勝2敗と王者・立海相手に青学が互角の戦いを繰り広げ、優勝の行方は記憶喪失のアクシデントから復活した主人公・越前リョーマ(キャスト:小越勇輝)と立海の部長・幸村精市(キャスト:神永圭佑)の一騎打ちに委ねられていた。中学生テニスの日本一、頂点を決める最後の戦いである。

 リョーマは白い光を浴びながら「無我の境地」をさらに一歩進め、強大なパワーを身体の1カ所に集める「百練自得の極み」を開眼し、攻勢に出たが、“神の子”幸村の前ではまったく通用しないのだった。

 窮地に立たされる“天才少年”リョーマ。天才は自らの早過ぎる成長を持て余し、立海の副部長・真田弦一郎(キャスト:小笠原健)に“悲しき産物”とまで言われてしまう。幸村はトドメとばかりに、リョーマの「百練自得の極み」のショットを易々とライン際へ打ち返した。絶対絶命である。

 もうダメだ。誰もがボールに追いつけないと思ったその瞬間、突如リョーマの脚にスポットライトが当たる。猛然と加速するリョーマ。そのままボールに追いつくと今度はスポットライトが右腕に当たりパワーが集中、強力なショットで幸村から得点を奪うことに成功。先ほどまでライバルたちにしごかれていたとは思えない動きだ。リョーマは土壇場で「百練自得の極み」のパワーを適材適所に移動・集中させる能力を開花したのだ。す、スゴいぞリョーマ…! スポットライトに照らされたその姿は、まさにテニスコートのヒーロー。「まずい…!」と“神の子”に初めての焦りが浮かぶのだった。

 ここで幸村の回想シーンに。幸村が難病に倒れ、テニスができなくなるかもしれないところまで追い込まれた過去が明らかとなる。出口の見えないような暗闇に包まれた舞台上で震えるように叫ぶ幸村。突然壮絶なトラウマを吐き出され、完全に狼狽える筆者。過去のトラウマすごいの来た…! 神永圭佑の迫真の演技が切迫感を煽った。

 試合シーンに戻ると、「百練自得の極み」のパワーを自在に操れるようになったリョーマがこれまでのお返しとばかりに強力なスマッシュを放つ。完璧に“キメた”と思われた返球だったが、これはあさっての方向、場外ホームランとなってしまう。全国大会レベルの選手ではあまり見られないミスだ。青学のベンチ、スタンドの四天宝寺中学校(以下、四天)のメンバーたちがザワつく。

 リョーマはそのままコートで転倒。鼻血を出したリョーマだったが、青学メンバーに指摘されるまで出血に気付かなかった。何かがおかしい。それは闇の淵から這い上がった幸村の気迫であり、叫びであり、“幸村のテニス”の本当の始まりを告げる最初の狼煙に過ぎなかった。

 リョーマはコート上でだんだんフラつき始める。「触覚を失い始めているようだね」と驚愕の指摘をし出す幸村。リョーマはどんなショットも確実に返してくる“幸村のテニス”により、どこに打っても返されるイメージを植え付けられ、その恐怖により“五感を奪われ”始めていたのだ。

……なんてことだっ! ……ん…そ、それって…ど、どういうこと!?

 テニスがほぼ『聖闘士星矢』みたいな戦いになってる。だが、状況をうまく飲み込めない筆者に付き合っている暇などない。リョーマはボールを打った感触どころか、すべての触覚を失いつつある中でテニスをしていたのだ。

「お前を蝋人形にしてやる!」

 との幸村のセリフで、テニスコートではなく角界の土俵に降臨しそうなデーモンも真っ青な曲がスタート。リョーマは2幕分も動き回ってきたとは思えない激しい運動量で、幸村にコート上を上下左右、前へ後ろへと翻弄され、フラフラになりながら追い詰められていく。誰も逃れられない“幸村のテニス”の圧倒的な力を誇示する歌を歌いながら、“魔王”としての風格を漂わせ、力強く舞う幸村。実際にリョーマがひざまずかされる印象的なシーンでは、「閣下!」と筆者もひれ伏した。

 満身創痍のリョーマをたしなめるように、「そんな探り探りのショットじゃ…」と幸村が一閃のショットを返すと舞台は暗転。リョーマは視覚も奪われてしまったのだ。幸村の禍々しい強さに絶望する観客……というか筆者。しかし、目が見えなくなってもリョーマは諦めない。「身体にテニスの動きは染み付いているからね…音さえ聴こえれば…!」と、ボールの音だけでラリーを続けたのだ。す、すごい!

 つまりリョーマは音だけを頼りに音速に近いスピードで、状況判断・移動・返球しているわけだ。もうテニス仙人の域! 青学の桃城武(キャスト:石渡真修)も「やっぱすげーぜ越前っ!」と叫ぶが、“やっぱ”の想定レベルが筆者の予想を軽々超えていく。それでも、仙人と神の子では力の差は大きかった。「ぼうやの負けだよ」と幸村の最後通告で、舞台は完全に真っ暗に。リョーマはついに聴覚も奪われたのだった。

ぜ、絶望的……!

 暗闇の中、「どうしてこんなに苦しいの」「テニスってこんなに辛かったっけ」と悶え苦しみながらラケットを振り続け、歌い舞うリョーマ。あの生意気な天才少年が「テニスが辛い」とまで追い詰められている様は、胸が苦しくなるほど痛々しい。これは、立海を全国3連覇に導かねばならない重圧、テニスが2度とできなくなるかもしれない恐怖と絶望を味わった幸村の強迫観念に近いテニスを、リョーマや観客が疑似体験させられているのかもしれない。多くの女性ファンも固唾を飲んで小越王子の苦しみを見守っていた。

 あまりにも絶望的で試合になるわけがない。それでも必死に食らいつこうとするリョーマ。「五感にはまだ嗅覚と味覚がある。それで頑張るんだプリンス!」と応援した瞬間に、「嗅覚はまだしも味覚って…」と自身の無責任すぎる発想のブーメランが直撃し、筆者もまた五感を失った。

 そもそもバカの五感以前に、リョーマはとっくに五感を失っていた。何も見えない・聴こえない・感じない地獄の中、「誰もがもうテニスをするのも嫌になる状態」でも彼は試合を諦めず、サーブを打とうとする。す、スゴい…! その様子に「やはりキミは危険過ぎる」と幸村は戦慄するのだった。

 その時、リョーマの父・越前南次郎(キャスト:森山栄治)が会場に駆けつけ、苦しむリョーマに「テニス、楽しいか?」と語りかける。その問いで何かに目覚めるリョーマ。迷いを振り切るように、テニスを始めたばかりの頃を思い出したのだ。

「テニスって…楽しいじゃん!」

 ピカー! そのセリフとともに闇に沈んだ舞台上のリョーマに光が集まる。ついに最後の奥義「天衣無縫の極み」状態へと入ったのだ。南次郎曰く、「天衣無縫」とは本来誰もが持っているもので、テニスを始めたばかりの頃に楽しくてしょうがなかった気持ちであり、“テニスを楽しむためのテニス”だという。

テニスを楽しむためのテニス……!

 驚くほどシンプル……! ちょっとした禅問答みたいだ。開眼したリョーマがサーブをすると、幸村はまったく捉えられない。審判もあまりの速さでボールが見えず、リョーマが「コールまだ?」と生意気な口ぶりで催促するほど。テニスが楽しいと、そんなに球速くなるのか。一気に形勢逆転である。

「じゃあ…少し遅めでいくよ」

 うわーすごく生意気になったーーー! 今度は清々しいまでにリョーマの“余裕”のターン。屈辱的な挑発だが、幸村はまったく手も足も出ない。客席の筆者の方も1試合での起伏が激しすぎて疲労度はMAX、もう手も足も動かない。テニミュ1舞台で、どれだけの中学生たちが開眼の境地に入ったことか。開眼どころか進研ゼミの答えすら見抜けなかった筆者の中学生の頃とは雲泥の差だ。公演を通して真っ向勝負で感情移入し、彼らの精神状態についていこうとしてきたが、こちらは開眼する前に一足飛びでポックリ仏になりそうである。

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