おたぽる > その他 > 舞台俳優の厳しい現実  >  > 2ページ目
元・夢追い人が綴る“俳優奮闘雑記” 第3回

俳優生活の歴史が動いた瞬間! ギャラなしノルマありの東京初舞台から始まった職業・俳優の厳しい現実

 ちなみに、ギャラはありません。あるのはノルマです

 舞台をやるには会場費が必要になり、それを出演者みんなで負担するのでその負担分を「ノルマ」と言ったりします。この時は確か、3000円のチケットをひとり30枚さばくこと。それでも、駆け出したばかりの自分にとって、とにもかくにも1本、舞台が決まった事は嬉しいことでした。

 私が出演するのをネタにして、いくつかの芸能事務所にも手紙を書いて宣伝しました。見てもらって次の仕事に繋げよう、そういう魂胆があったのです。

 私の東京初舞台は、無事に終演しました。きっと、しばらくしたら、また出演のオファーが来るぞと思っていました。

 ところが……それから何もなかったのです。予定に入っているのはアルバイトのシフトのみ。いつもと変わらない日常に戻っていました。

 何もかもが振り出しでした。しばらく呆然としてしまいましたが、そういえば東京で活躍している舞台俳優さんというのは一体誰なのかあまりよく分かっていなかったな? と思い、大きい劇場から小さい劇場までいろいろ行ってなるべく多くの作品やら俳優さんを見ることにしました。

 素敵な演技をするある俳優さんに(一方的に)出会ったのも、この時です。その俳優さんとは、『坂の上の雲』(NHK)などにも出演していた千葉哲也さん。僕は千葉さんの舞台を見て、さてこの人はいったいどこの劇団なのか? もしくはどこの芸能事務所か? と、色々調べました。そして、たどりついた千葉さんの所属芸能事務所では新人募集はしていなかったものの、ワークショップを定期的に開催して居ることがわかりました。

 演劇界でいうワークショップとは、講師を中心に演劇的なゲームをやったり、ある台本の一部を使って演技のトレーニングをしたりすることです。このまま毎日をアルバイトで終わらせるより、何か動いたほうがいいなと思ったので、早速私はコンタクトを取り、ワークショップに参加することにしたのです。ワークショップはとても刺激的でしたし、古典の題材を使う事が多かったので、それまでシェイクスピアなんて全く興味がなかったのですが、おかげで古典の作品にも出てみたいと思うようになりました。

 そんなこんなでワークショップに通っていると、ある日、その事務所の社長が来たんです。最初は普通のおばちゃんだったので全然気づかず、誰かが「社長」と呼んで気づいたのですが……そんな社長に、ワークショップ終了後、「あんたちょっと写真撮らせてよ」と声をかけられたのです。「来月の予定とか空いてる?」と聞かれたので「はい、空いてます(本当はバイトの予定でいっぱいだったが)」と答えると、社長は「じゃあ、また連絡するわ」と一言残して去っていきました。

 その後、しばらくして本当に社長から連絡があり、舞台の仕事が決まりました。それから少しずつ仕事の連絡をもらうようになり、私は所属という形ではありませんでしたが、その事務所から仕事を受けるようになりました。

 まあ、だからと言って俳優業だけで生活できるかといえば、それは難しかったです。アルバイトをしながら舞台に立ったり、またオーディションを受けに行ったり、ほかのワークショップに参加してみたり……いろんなアプローチをして仕事を掴んでいました。私の東京生活は、こうして苦しい芸能活動とも共に続いていくのです。

●SHINOBU
1983年、兵庫県生まれ。信州大学卒。「劇団山脈」出身の元俳優。同劇団では、脚本、演出も担当した。震災をテーマにした「関西少年」が話題となり、地元のテレビや新聞に取り上げられる。出演した主な舞台に、『水の話』(演出:中嶋しゅう)『血の婚礼』(演出:門井均)「黄金の刻」(演出:なかにし礼)「アセンション・ミロク」(演出:上杉祥三)など。

俳優生活の歴史が動いた瞬間! ギャラなしノルマありの東京初舞台から始まった職業・俳優の厳しい現実のページです。おたぽるは、人気連載その他演劇連載の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!