練習方法や、試合の運びなどは、ごちゃごちゃ言葉で説明はなく、絵を見れば理解できる。これは作者の非常に高い画力があればこそできる芸当である。
読者は知らず知らず、三五と自分を重ねて、まるで自分が強くなっていくような気がする。
僕のようにスポーツには縁遠く、興味もなかった者でも、
(柔道部に入っていたら強くなれていたのかもしれないな。)
と錯覚してしまう。体育会系サークル疑似体験装置としてはとてもすぐれた作品なのだ。
そして『柔道部物語』のタイトル通り、三五の話だけではなく、柔道部としての成長や軌跡も描かれる。そこもとても楽しかった。
三五の同級生や先輩の試合も丁寧に描かれ、それぞれにドラマがある。レギュラー選手だけではなく、例えばサボってばかりのキャラクターや、がんばっていても成長できないキャラクターもちゃんと描かれている。
三五もただ強くなるだけではなく、ヒョロヒョロだったのが、いかにも柔道家なマッチョな体型に育つ。そして体格がマッチョになったのに比例して、性格も強くたくましくなる。柔道に打ち込むことで起きた変化がキチンと描かれているのだ。
「そんなマンガはほかにもあるじゃん……」と思う人はいるだろう。確かに、主人公以外のキャラクターや試合もきちんとに描かれているマンガはたくさんある。ただ、そういうマンガはひたすら長くなりがちで、スピンオフがやたら描かれたり、サイドストーリーが膨らみすぎて、物語がどこに向かっているか分からなくなってしまう作品も多いのだ。
『柔道部物語』の地味にすごいところは、11巻という、現在の人気マンガから見れば少し物足りなくも感じる巻数で、キチンと物語をまとめている点である。
それはまず柔道という競技の特性がある。一試合が比較的短いし、あっさりと試合が終わる場合も多い。
また、省略しても問題がない試合は、結果のみを描いて、物語が冗長になるのを防いでいる。三五の恋愛やプライベートも描かれているが、描きすぎてはいない。やはり中心は、柔道であり、柔道部なのだ。
物語を常識的な長さでキチンと終わらせる能力というのは、最近ではあまり評価されないのかもしれないが、僕はとても重要な点ではないかなと考える。一話完結のゴルゴ13のような作品ならともかく、数十年かけて物語が終わらないというのは、やはりおかしい。
これ以上書くと、あの作品やこの作品の悪口っぽくなっちゃうのでやめておこうかな……。
小林まこと氏は、とにかくキャラクターを描くのが上手い。マンガの主人公は基本的にかっこいい場合が多く、ブサイクなキャラクターは案外少ない。しかし三五十五の場合、おそろしく眉毛が太い。そして、集中すると口がひょっとこの様になる癖を持っている。
普通に考えたらかっこ悪いのだが、作品を読み進めるとそんな三五がとてもかっこよく思えてくるのだ。表面をかっこよくするのではなく、中身をかっこよく描くことで、その見た目までかっこよく思えてくる。キャラクターがしっかり描けているからこそ。並みの作者では、到達できない。
小柴、鷲尾、平尾、名古屋、秋山、名古屋、田丸……と苗字だけを聞いても、すぐにその人物が頭に浮かぶ。いいキャラクターが大量に出てくる柔道部物語だが、久しぶりに読み返してみて、一番グッときた男は、耕談館大学付属浦安高校の西野新二だった。
読んでいるだけで自分も強くなった気がする!『柔道部物語』に感化された青春時代のページです。おたぽるは、人気連載、漫画、作品レビュー、連載、名作プレイバック、村田らむ、柔道部物語の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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