『愛と呪い』平成に起きた実際の事件の数々を背景に、父から性的虐待を受け続けた少女はどう成長し、世界を壊していくのか……

 児童虐待が後を絶たない。千葉県野田市で今年1月、小学4年生の児童が虐待死したとされる事件は、周囲の大人や役所、学校、教育委員会がもっと迅速に動き、事情を把握していたら救えた命だったかもしれない。そういった意味で世間の注目度は高く、様々な報道がなされた。

 幼少期にはそれが虐待だと気付かなかったが、成長するにつれてそれが虐待だったと気づき、トラウマを抱えるというケースも少なくないと聞く。ふみふみこ氏の描く『愛と呪い』(新潮社)もそんな女性が主人公の作品だ。

 以下、公式の紹介文だ。


 物心ついた頃には始まっていた父親からの性的虐待、宗教にのめり込む家族たち。愛子は自分も、自分が生きるこの世界も、誰かに殺して欲しかった。阪神淡路大震災、オウム真理教、酒鬼薔薇事件……時代は終末の予感に満ちてもいた。「ここではないどこか」を想像できず、暴力的な生きにくさと一人で向き合うしかなかった地方の町で、少女はどう生き延びたのか。『ぼくらのへんたい』の著者が綴る、半自伝的90年代クロニクル。


 現在2巻までリリースされている今作は、その緩い作画とは反対に、極めて重く、鬱な物語である。

 主人公・愛子はとある宗教団体が設立した学校に通っていた。愛子はそこでの生活と宗教に対する矛盾をどこか感じている。しかし、その矛盾が何か自分でははっきりと分からない。プライベートでは父親に性的虐待を受けていた。しかし、その意味がまだ理解できていなかった。父親に性器をもてあそばれ、性行させられるのは「そんなもの」と思っていたのだ。

 そんな小学生時代を過ごしていたためか、愛子はどこか感覚がずれたまま成長する。中学、高校と、すれた少女に成長した愛子はうまく周囲ともなじめず、うまく同年代の男子とも付き合えない。彼女は見知らぬ男に身体を許すことで、瞬間的な愛を得ることでなんとか生き延びていくが、それもやがて限界を迎える。愛子は自殺を試みるも失敗する。精神的に錯乱した彼女は、諸悪の根源とみなした父親をゴルフクラブで撲殺しようと決意する……。

 この作品の魅力的な部分は、鬱な部分をていねいに描くことはもちろんなのだが、実際の事件を物語に絡ませることだ。例えば、酒鬼薔薇聖斗が起こした神戸連続児童殺傷事件や、西鉄バスジャック事件など、いわゆる「キレる17歳」と言われた事件の数々が引用される。

 もちろんそれだけではないが、愛子の成長とともに、実際に起きた事件が作中に登場するのだ。その事件があたかも彼女の心の中身を映しているかのように。

 それだけではない。宇多田ヒカルやポータブルMDなど、時代を反映したものが登場し、その当時を知っている人たちの胸に、なんとも言えない哀愁を呼び起こし、不思議ともの悲しい気持ちにさせる。

 この悲しさがなんなのか。過ぎた青春に対してなのか、いまの自分に対してなのかは人それぞれだろう。

 愛子は今後どう成長していくのか。ぜひ見届けようではないか。
(文=Leoneko)

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