昨年の11月、母校・駒沢大学が創立百三十周年の記念に豪華な校舎を建てた。そのおひろめと大学祭を兼ねて同窓会が開かれた。
9階建の建物にエレベーターと、エスカレーターが設置され、学生食堂は1200席もありびっくり。教室で喫茶店があり、派手な衣装の女生徒たちが接待していたので、ぼくは『薔薇族』という雑誌知っていると聞いたら、誰ひとり知らなかった。それじゃ山川純一っていう劇画家を知っていると聞いたら、なんと全員が知っていた。
その山川純一なる人物を先ず書いてみたい。
1982年(今から37年前)夏の暑い日のことだった。彼がなんの前ぶれもなしに、わが家を訪ねてきた。このときぼくが外出していたら、ぼくの他には他の編集者は誰もいなかったから、彼は他社に持ち込んでしまったに違いない。その時の彼の顔までは覚えていないが、洗いざらしの白い半袖シャツによれよれのGパン。玄関先に立った彼の姿は、今でも脳裏に残っているが、いくら部屋に入ることをすすめても、彼は玄関先で立ったままで、原稿を置いたままで帰ってしまった。
いろんな読者がわが家を訪ねてきたが、おふくろはどんな客でも部屋に招き入れ、お茶や、お菓子などを出し、食事どきだとおそばなどを客に出してくれた。
最初に持ちこんできた作品、『刑事を犯れ』を早速読んでみた。映画館に張りこんでいた刑事に手を出したサラリーマン。この映画館はホモのハッテン場。
短髪で浅黒い肌。刑事のチャックを引きおろし、人目もはばからず愛撫した。事件はその時起きた。
「よ〜し、そこまでだ。いいかげんにしな、このホモ野郎」
張りこんでいた刑事につかまってしまった。
ずう体ばかりでかいのに弱い刑事をなぐりつけ、刑事を犯すという興奮が、おれに理性を失わせていた。その刑事を犯してしまうという、とんでもないストーリー。
ぼくはこの作品を次号に載せることにした。藤田竜君にも、もうひとりの編集員にも相談もせずにだ。ハッテン場の映画館に張りこんでいた刑事を逆に犯してしまうという発想が面白いと思ったからだ。
次の月にも彼は作品を持参して玄関先に現れた。原稿料をぼくの財布から用意してあげたと思う。住所も氏名も明かさないのだから、領収書を彼に書かせることができないからだ。
いくら払ったのかは覚えていないが、つつましい生活をしているようなので、生活保護費ぐらいの金額だったと思う。山川純一のペンネームもぼくが名付けた。いいペンネームだった。
(文=伊藤文學)
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