華山みおの物語探索 その61

『新聞記者』政治に無関心は実はかなり怖いこと…現代日本を痛烈に風刺した報道サスペンスに深く考えさせられる

 追い詰められた神崎というキャラクターが死を選びます。その際に無言で、しかし存在感たっぷりに立ちはだかる建物があります。映画のラストシーン、苦悩する杉原の後ろにも同じ建物が背後にたたずみます。それは、国会議事堂。最高権力の象徴のような建物が物言わずどっしりとこちらを監視するように、圧力をかけるように存在するのです。

 この作品には実在の人物の名前は出てきません。ただシンボル的に国会議事堂が無言で立ちはだかります。その中心にいる人の影がちらつくのです。それがさらに恐怖を増幅させます。

 神崎の最後を、そして杉原の決断を政府が見ています。そうするように仕向けるのです。直接的な言葉を言わず、どうしてもそうなってしまうように追い込まれていきます。それを国会議事堂を映すことだけで表現しているのです。その恐ろしさ。

 杉原の務める内閣情報調査室が描写されるとき、他のシーンとは全く異なる灰色の世界が広がります。その職場の中だけが均一な暗さで冷たさを感じさせます。この職場が行っていることに恐怖心を植え付ける効果が十分に発揮されています。田中哲司演じる多田の氷のような視線も相まって、ここに長年勤めあげていくことで志し高く官僚になった者たちが、どのように心が死んでいったかが見て取れます。

 新聞記者も官僚も、大学を優秀な成績で出たものがなれる職業というイメージが私の中にはあります。皆最初は大きな志を持ち、日本がより良くなるような理想を掲げ邁進していたはずです。安定した政権を維持させるために、「この国の民主主義はカタチだけでいい」なんてセリフを言うためになったわけではなかったと信じたい。

 どの作品も、日本を支える仕事のトップが保身や自己の欲求のためだけにその仕事の大義を忘れて、私欲を肥やす姿を見る度に最初の気持ちの行方が、いつどこでどんな風にその気持ちが死んでしまったのかと考えて悲しくなります。私は夢を見たいです。彼らの志が日本を少しでも良くするためにという想いが残っていることを。人が聖人君子でいられないことは分かっているし、しがらみがあることも分かります。だけど、漫画の中のヒーローみたいに、理想の政治家みたいな人がいるって信じたいのです。

 作中、シム・ウンギョン演じる吉岡が「私たちこのままでいいんですか?」と問いかけるシーンがあります。それはまるで、画面越しに自分に言われているような気持ちになりました。世界からみても、日本は色々な意味で劣っているのではないでしょうか。おかしな風習に囚われていたり、保身しすぎていたり、甘い汁の裏で弱者が生きづらくなっていたり……。

 もちろん悪いのは政治家だけではありません。分からない、知らないで過ごしてきた私たちの責任も大きいのではないでしょうか。「知らない」は危険です。気づいたら身動きが取れなくなってしまいます。せめて、少しでも知ること、現状を知る、自分が置かれている状況を知る、知れば選べます。小さなことかもしれませんが、今回この映画を観たことで私は興味を持ちました。本当に低レベルかもしれませんが、いまの政治の現状を知りたいと思いました。

 政治の熱い議論はやはり怖いという気持ちもありますが、「知らない」ということを教えてくれた映画です。

 「誰よりも自分を信じ疑え」作中に出てきたこの言葉。この作品を全部は信じなくてもいいですが、疑うきっかけとしてぜひ、いまのうちに劇場で見てもらいたいです。特に私のように今まで無関心だった人たちに届いてほしいです。私たち、このままでいいんですか?
(文=華山みお)

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