華山みおの物語探索 その59

『きみと、波にのれたら』大切な人を失ったとき、あなたならどうしますか?さわやか青春ハートフルボッコラブストーリー!

 今回は湯浅政明監督の劇場アニメーション『きみと、波にのれたら』をレビューします。

 大学入学を機に、サーフィンが好きなこともあって海辺の街へと引っ越したひな子。新生活をスタートさせた彼女は、ある火事騒動がきっかけとなって心優しい消防士の港と出会う。一緒にサーフィンに行くなどするうちにひな子は、港に密かに思いを寄せていく。

 物語の前半で、独り身の人の精神は死にます。

 公開前からCMや主題歌が目に飛び込んできていました。繰り返し見ていたことで「恋人が死んでしまうラブストーリー」ということを念頭に映画館に向かったのだが、その恋人と出会い恋に落ち、ふたりがどれだけ濃密な時間を過ごしたか、互いのことがどんなに好きか、どれだけ掛けがえのない相手なのかが描かれます。その描写が本当に素敵なカップルで、もうなんだろう、すごく打ちのめされました。そういう類の映画じゃないのに!

 すごくいいシーンだし、ふたりが笑いながら歌っているのが最高なんです。でも精神をフルボッコされた気がしました。ふたりのことはすごく素敵だと思っているのに! なんだこの気持ち……。

 同じような症状に見舞われた人も多かったのではないでしょうか。それくらいに、爽やかでシンプルで極上のラブストーリーが前半に繰り広げられました。だからこそ、突然の事故で大好きだった恋人・港を失ったひな子の深い絶望が胸をえぐります。

 大好きだった海から遠い場所に引っ越し、誰にも会わずに足をこすり合わせ、頭をなでつける仕草が個人的にとても印象に残っています。生前の港に「一緒にいる間はずっと触れていたい」とひな子は言っていました。不安を打ち消したいのに、いつもそうしてくれていた港の存在がなくて、自身で必死に埋めようとしているように映りました。

 その憔悴の後だから、見えない人からすれば奇異な行動に映る「水港」とのデートも、痛々しくも愛おしく思えます。そして何よりそれを付け回していた山葵くんが痛々しい。

 自分の大切な人を失った後に、「もう一度だけでいいから会いたい」と願わない人はいないでしょう。どんな手段でもいい。言葉をもう一度交わせたら、顔が見れたら、思いが伝えられたら……。

 水の中ではあるものの、ひな子はその願いを叶え、港と対面できます。離れたくない気持ちから、行動してしまうその気持ちが手に取るように分かり、心臓が痛くなるんです。

 この作品の中では“水”が大切な意味を持ちます。アニメーションだから出来る表現や、アニメーションだから難しい表現も、独特の色彩や世界観で同じ“水”でもシーンによって実に様々な形で表現がされています。

 雨、海、波、飲み物、雫、水たまり、そして涙もみんな色が違います。温度が違い、カタチが違います。当たり前だけど、光の含み方とか粒の感じとかでこんな“水”があるのかと驚かされました。

 最後、CMでも多様されているひな子の泣きながら水の中にしゃがみ込むシーンが、イメージと異なったので、一番衝撃でした。あのシーンの涙は、ひな子と一緒に私もこぼした、とても熱いものでした。

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