華山みおの物語探索 その58

『ハウス・ジャック・ビルト』サイコパスなシリアルキラーの深層心理を理解できるか!?グロ耐性のない人は閲覧注意!

 今回はカンヌで賛否両論を巻き起こしている話題のラース・フォン・トリアー監督映画『ハウス・ジャック・ビルト』をレビューします。

 1970年代の米ワシントン州。
 建築家になる夢を持つハンサムな独身の技師ジャックはあるきっかけからアートを創作するかのように殺人に没頭する…。彼の5つのエピソードを通じて明かされる、“ジャックの家”を建てるまでのシリアルキラー12年間の軌跡。

 映画を観るとき、どれくらい下調べをしていきますか? 私は大まかなあらすじとポスターをて「おもしろそう」と思ったものや、映画館で予告を見る程度の前知識で映画館に行きます。だからね、今回の映画がシリアルキラーの映画だということは知っていたのです。ちょっと怖いシーンも多いかもしれないなぁと覚悟はしていました。

 でももうちょっと調べてから行けばよかった……。トリアー監督の映画だったなんて。ラース・フォン・トリアー監督。【鬱映画】の代名詞な『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ニンフォマニアック』の監督の作品だったのだから、ただのシリアルキラーの話になるはずもなかったのです……。

 もともと痛いシーン(暴力や殺人、スプラッター的な表現)が苦手で、医療モノの手術シーンすら直視できないビビりには、R18指定の描写のある残虐なシーンの数々は刺激が強すぎです。

 60人以上を殺してきたジャックが無作為に選んだという5つのエピソードが語られ、彼の人生を傍観していくこの作品。最初のエピソードは、正直殺されてしまった彼女にもそれだけの理由があって、「あ……でもまぁこれはジャックが殺したくなるのも分からなくはない……」というもの。あれがジャックの初の殺人らしいのだけれど、一回の経験でその後の人生をシリアルキラーと決定づけるものになり、殺人の魅力にのめり込んでいきます。

 シリアルキラーの主人公・ジャックは潔癖症で強迫性障害を持っています。殺人の中で彼がこだわってしまう点が毎回異なり、そのこだわりゆえに行動がエスカレートしていきます。警察に見つかりそうになる危険を何度も犯していきます。だけど、それでもこだわりを全うすることに執着してしまうんです。もうそこまで警察が来ているのに、あそこの血が拭えていないのではないかと何度も現場に戻ったり、子供の死体にお弁当を食べさせるように母親に強要したり、針金で死体にポーズをとらせて悦に入ったり、胸をこそげ取ってそれを自身の小銭入れにして持ち歩いたり……。

 美学はそれぞれの価値観で生み出されるものだから、ジャックのそれも個人の自由ということでいいでしょう。ですが、やっぱり死体だったり殺人方法などの美学については、理解できないことだらけです。痛いシーンを直視するのが怖すぎて、ジャックが手を下すシーンは字幕以外を手で覆ってしまいました。胸を生きたまま切り取るとか怖すぎだよ…‥。

 サイコパスは自身がサイコパスであることを受け入れないと聞きますが、彼は自身がそうであることを受け入れ、それを楽しんでいるとトリアーは語ります。4番目の出来事では、これから殺されるジャクリーンに自分が60人も殺していると告げて、街中にも大声で叫びます。そして「ミスター洗練」という署名入りで、死体を用いた芸術写真を新聞社に送り付けたりしています。

 この作品では、対話するような形で殺人を犯すジャックの状況や精神状態について説明する映像や小話が差し込まれます。例えば、グレン・グードルというピアニストの演奏する姿や、ヒトラーのエピソードなどです。

 ひとつずつのエピソードに入るそういった閑話と、物語のエピローグからガラリと世界観が変わって精神世界の中に迷い込んだような展開から、ジャックの頭の中の混沌を見せられるのです。やはりサイコパスを理解するということは、不可能なように思わされました。

 理解する、ではないのかもしれません。私はこの物語を楽しむことができず、恐怖を感じ続けました。ただ、こういった人間が世界のどこかに確実にいるのです。……という世界を、怖いもの見たさに覗いてしまったのです。

 ジャックが最後に建てた家はおぞましいものですが、彼の人生で作り上げたかったカタチなのは伝わってきました。そしてそのあとの行動が、一体何を示唆していたものなのかはいまだに分かりません。

 この映画を観て、あなたがどのような感想を持つのか。ぜひその答えを探しに映画館に足を運んでください。そのときは、自身の恐怖耐性をしっかり確認してからいくことをお勧めします。
(文=華山みお)

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