ミリオタライター二木知宏の「武器で見る映画」第11回

マット・デイモンが舞う!『グレートウォール』と“ブラックパウダー”が変えた兵器史

 火薬の軍事利用が盛んになったのは、宗の時代です。なぜか? これにはさまざまな説がありますが、僕が有力だと思う説を紹介します。当時、馬の産地は宗の隣国のみで、宗は常に周囲の遊牧民や馬賊の脅威にさらされていました。宗は、ほとんどの兵士が歩兵という状況です。普通に戦ったら騎馬兵が圧倒的に強く、歩兵はひとたまりもありません。

 しかし、騎馬兵には、というか、馬には弱点があります。火薬の音に驚いて指示を聞かなくなる、という動物本来の反応。騎馬兵が少ない宗の軍は必然的に火薬に頼ることになるわけです。といった経緯から宗の時代に、世界初の火薬兵器が生まれました。その名も「火槍」です。構造は簡単で、火薬や投擲物の入った竹筒です。チープですが、これで馬はびっくりするわけです。そして、これがやがて、大砲や銃、ロケットへと進化していきます。その名残は2010年代でも確認でき、今現在でも、中国では銃のことを「槍」と表記します。中国人民解放陸軍の装備として、92式手槍(ハンドガン)や03式自動歩槍(アサルトライフル)などがあるのは、そういうことです。火槍も今の銃器と基本的な構造は一緒なのを思うと、人類は、三大発明から大して進化していないのかもしれませんね。

 さてさて、他の登場武器も紹介しましょう。前述した通り、対騎馬戦ともなると、次第に兵士の武器は遠距離武器になっていきます。「火槍」はまだまだ秘密兵器で、主力はというと、弓や弩です。同作品の主人公も弓使いです。使っている弓の種類は「複合弓、コンポジットボウ」と呼ばれる代物。

 弓の歴史を簡単に言いますと、まず「単弓、セルフボウ」が発明されます。木材と紐の簡単なもので、石器時代から狩りに使われていました。より強く、より遠くへ、それを目指すと、弓は大きくなります。当たり前ですが、そうすればより大きく“しなって”強い矢が放てるわけです。それが「長弓、ロングボウ」です。強く遠くを実現すれば、次に望むものは、そう、軽さ、小ささとなっていきます。なんとかコンパクトで長弓並みの強さを実現できないか? その解答が「材質を変える」こと。一種類の木材ではなく、動物のツノ、腱、骨、さらには鉄や銅などを“複合”させる弓、「複合弓、コンポジットボウ」が発明されたわけです。ただそうなると、一つの複合弓を作るのが大変になり、コストがかかってしまいます。一長一短ですね。

 そのほかにも槍や剣、盾などを駆使するわけですが、中でも目を見張った兵器は、「巨大投石機」でしょう。ひょっとしたら、人類が最初に手にした武器、それは落ちていた石だったかもしれません。手で投げるだけで、対象の遠方から大きなダメージを与えられます。

 投石機は、中国では、唐の時代から使われていました。そして、火薬を使うようになった宗の時代からは、炸裂弾を飛ばすようになりました。攻撃範囲も広がりを見せたわけで
す。映画内では、巨石に油のような可燃性の液体をかけ、火をつけて飛ばしていました。

 僕は、城を見ると、どうやって攻めたんだろう? とか、どうやって守ったんだろう?とかさまざまな想像を巡らせてしまいます。歴史に思いを馳せる、なんて言いますが、その取っ掛かりとして、まず、武器や兵器などから入ってみる、なんてのもいいのではないでしょうか。
(文=二木知宏[スクラップロゴス])

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