ミリオタライター・二木知宏の「武器で見る映画」番外編

世界初だらけ! 『幼女戦記』“銃と魔法”はフィクションではなかった!?

幼女戦記』“銃と魔法”はフィクションではなかった!?TOKYO MXほか『幼女戦記』番組サイトより

 武器で見る映画、今回は番外編ということで、カルロ・ゼン原作の小説(KADOKAWA)を上村泰監督でTVアニメ化した『幼女戦記』(TOKYO MXほか)をご紹介します。この作品の舞台は、第一次世界大戦と第二次世界大戦が混ざったような状況のヨーロッパと似て非なる、魔法が存在している世界。年号も西暦ではなく、統一暦といい、魔法が存在している世界なので、兵士が空を飛び、銃弾を魔法の盾で防ぎ、銃弾一発で大爆発を起こします。あくまでも、似ているだけで別世界ということなんですが、それでも、作中で使用されている武器や兵器は、過去の世界大戦時代のものをモチーフとしているようです。

 主人公は幼女の姿をした、ターニャ・フォン・デグレチャフで、敵から“ラインの悪魔”と恐れられています。そんな彼女が使う武器が、メキシコ軍のマニュエル・モンドラゴン将軍がメキシコで設計し、スイスで製造された「モンドラゴンM1908」です。製造した会社は天下のSIG(シグ)。最近だと、アメリカ陸軍の正式採用拳銃が「M9ベレッタ」からシグ・ザウエルの「P320」になるかもっていうニュースが流れて一部で騒然となったシグなんですけど……知らないですよね?

 もっとも、今のスイスではシグは武器製造を取りやめ、その製品や権利はドイツのシグ・ザウエルに引き継がれています。この「モンドラゴンM1908」は、メキシコ近代化の父と呼ばれた政治家にして軍人であるポルフィリオ・ディアス大統領が下した「世界のどの国よりも素早く連射できるライフルを設計しろ!」という命令から誕生したという経緯があります。1896年に、このライフルはアメリカで“世界初の半自動小銃”の特許を取得しています。

 さて、ターニャが所属しているのは帝国軍です。その帝国軍の兵士が、塹壕の中で手にしている小銃が「マウザーGew98」です。この“Gew”はドイツ語の発音では“ゲヴ”と言うんですが、元は、小銃を意味するドイツ語の“Gewehr(ゲヴェア)”です。ドイツ人以外発音しづらいので、簡単に「G98」とか「M98」と呼ばれることもあります。製造元のマウザー社は、マウザー兄弟が設立したドイツの銃器メーカー。このマウザー社は、自動拳銃の「モーゼルC96」などで有名ですね。ちなみに、表記は“Mauser”と書きます。不思議なもので、会社を呼ぶときはマウザーかマウゼルというのに、作っている銃はモーゼルって呼ぶ方が多いです。全部同じ意味で、同じ綴りなんですけど。

 この「Gew98」は、1898年から1935年まで、ドイツ軍の正式採用小銃でした。つまり、この銃を帝国兵士が使用しているということは、作中のこの帝国のモデルは、ドイツ帝国といえるでしょう。制服とかセリフの言い回しとかで、「これドイツだなぁ〜」って思った方もいるはず。

 ちなみに、先ほど紹介した主人公の使用武器である「モンドラゴンM1908」もドイツ帝国で使用されていました。さらにこのマウザー社は現在、先ほど紹介したシグ・ザウエルの傘下に収まっているんですね。

 敵のレガドニア協商連合軍が使用しているのが、スプリングフィールド「M1ガーランド」です。アメリカのスプリングフィールド造兵廠が開発した武器で、開発者はジョン・C・ガーランドです。先に紹介した「モンドラゴンM1908」は、“世界初の半自動小銃”でしたが、対する「M1ガーランド」は“世界初、実用に成功し、歩兵の主力兵器となった半自動小銃”といわれています。非常に有名なライフルで、大戦中のライフルといえば、僕は最初に、この「M1ガーランド」を頭に思い浮かべるくらいです。この「M1ガーランド」はアメリカの正式採用小銃でしたし、我が自衛隊でも使用されていました。

 フランソワ共和国軍兵士が装備しているライフルは「ルベルM1886」です。ルベルライフルの愛称で呼ばれていたこの銃の名称は、フランス軍のニコラス・ルベル中佐から取られています。「なるほど、銃を開発したのが、このルベル中佐なのね!」と思うでしょう。そう思っちゃうでしょう! でも、違います! このルベル中佐の大発明は銃ではなく、使用する弾丸なのです。

 それまでの弾丸で主流だったのは、黒色火薬と呼ばれるもので、煙を出すもの。よく西部劇なんかで、拳銃撃った後、銃口から上がる煙をフッと吹いて、くるくるガンアクションしてホルスターにしまうものです。しかし、現代の銃撃戦では煙はあまり出ていません。たまに出しているのもありますが、ギャグ要素として、フッと吹く描写もありますが、あれはほんの冗談です。

 つまり、使用している火薬とは違うんです。今現在、銃で使用している火薬は無煙火薬と呼ばれているもの。昔は、「白色火薬」って言っていた気がするんですけど、多分わかりづらいから呼称が変わったのでしょう。世界初の無煙火薬は「B火薬」です。この“B”はフランス語で白を意味する“ブランシュ”から。つまりは白色火薬という意味ですね。ルベル中佐はこの「B火薬」を使った弾丸、「ルベル弾」を世界で最初に開発したんです。この世界初の「B火薬」を実用的に使える世界初の「ルベル弾」を使用した世界初のライフルこそが、このルベルライフルなんです!

 そりゃ、ルベルの名を冠しますよね。銃の開発者がかわいそう! ですが、煙が出る火薬と煙が少ない火薬、銃で使うならどちらの方が優れているか? この2択なら、どんな人でも煙が少ない方を選ぶと思います。自分で銃撃ったら、視界さえぎられるんじゃ、怖くて撃てません。

 この「ルベルライフル」の出現で、過去の黒色火薬は一気に衰退しました。まさに革命的な銃。「ルベルライフル」は1887年から1940年までフランス軍で正式採用されたライフルです。フランソワ共和国のモデルは、おそらくフランスなのでうなずけます。よく実写映画なんかで、フランス外人部隊がこの「ルベルライフル」を使用しているはずです。注目してみてください。

 大戦中は世界各国がそれぞれ必死ですから、世界レベルで科学技術が飛躍的に向上ます。第一次世界大戦、第二次世界大戦がそうでした。だから、世界初だらけになるんですよ。事実、歴史的に見ても新兵器、新武装、とんでもない武器の数々が大戦を機に開発されました。

 もちろん、この『幼女戦記』のように魔法を使って弾丸が爆発したりはしませんが、連続で弾丸が撃てるライフルである「モンドラゴンM1908」や、「M1ガーランド」は当時の人からしたら、もう魔法としか言いようがなかったことだろうと思います。新兵器は魔法なんです(笑)。

 いやぁ、武器って本当にいいもんですね〜。
(文=二木知宏[スクラップロゴス])

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