「『時かけ』に影響されたところはあると思います」 『僕だけがいない街』伊藤智彦監督インタビュー【16年1月新作・監督インタビュー】

――2016年1月に放送を開始する新作アニメ作品の中から、選りすぐりの注目作の見どころを、クリエーターへのロングインタビューとともにご紹介!

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「あの日、彼女は死んだ。」という衝撃的なキャッチが踊る『僕だけがいない街』(KADOKAWA刊)は、三部けいの人気コミックを原作に、監督を伊藤智彦、シリーズ構成を岸本卓、キャラクターデザインを佐々木啓悟、アニメーション制作をA-1Picturesが務め、2016年1月7日から “ノイタミナ”枠で放送開始を迎える、話題作。

 マンガ家としてデビューするもパッとしない毎日を過ごしていた青年・藤沼悟。彼には何か悪いことが起こると、その直前まで時間が戻る“リバイバル”という不思議な現象がつきまとっていた。だがある日起きた事件を機に、その現象に大きな変化が訪れるようになる。

 どんな事件が彼を待つのか、先の読めないスリルあるストーリー展開と、ノスタルジックな雰囲気を併せ持つタイムリープ&クライムサスペンスを、『ソードアート・オンライン』シリーズでも知られる伊藤智彦監督はどのように描こうとしているのだろうか?

―― アニメ化の話が持ち込まれる前から、伊藤監督は原作を読んでいたそうですが、『僕だけがいない街』はどんなところが面白かったんでしょうか?

伊藤智彦監督(以下、伊藤) 初めて読んだのは、単行本2巻が出たあたりでした。A-1Picturesの渋谷くんという人に渡されて読んだのですが、1巻ラストと2巻ラストで「え!? これからどうなるの?」と、先が気になるドキドキ感と、(舞台の)昭和63年のノスタルジックな感じ――ほぼ、主人公の悟と僕が同世代なので、「昭和63年ってこんなだったよな。ドラクエの話とかしてたよな」と思いながら読んでいたりしたので、その2点がやはり大きかったですね。

―― 原作コミックは、毎話、引きがすごく上手いですよね。その辺はアニメでも意識されているところですか?

伊藤 そうですね。原作コミック のように、ちょっと来週が気になるような引き、終わり方にしようというのは、シリーズ構成の岸本(卓)さんとも話をしていますし、意識している部分です。

―― コミックのプロフィールを見ると、悟くんは77年3月生まれという設定で、監督と確かに同世代です。“昭和63年”っぽさは、かなり意識されていますか?

伊藤 露骨に「懐かしいでしょ?」と押し出すのではなく、細かいところで「あ、そうだったよね」としたいですね、さじ加減だとは思いますが。携帯電話が出てこないのは当然として、家の中の家具にしても、こんな便利なものはなかったよねとか、そんな雰囲気を少しずつ出せればいいかなと考えています。

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―― もう一つの物語の舞台・06年も、実はもう10年前です。16年と06年も結構違いますよね。

伊藤 少なくともスマートフォンではないですもんね。第1話に飯田橋駅が舞台になるんですけど、誰も気づかないでしょうけど、 電車が通り過ぎるカットに今はもうない有名な喫茶店を仕込んだりしました(笑)。

―― 06年当時の飯田橋をちゃんと再現しているということですか?

伊藤 そうです。僕は当時から住んでいるところが飯田橋駅に近かったので、たまに使っていた有名な喫茶店がありまして。そのお店自体は08年くらいになくなってしまったので、「ちょうどいいや」と、入れ込ませました。わかる人にしかわからないし、多分2秒くらいしか見えてないですけど(笑)。

―― 80年代の空気を大切にされているんですね。

伊藤 ただ、いざやろうとすると難しいんです。今ちょうど山田孝之さんが演じている、1970年代から2015年現在までを映し出す缶コーヒーのCMがありますよね。あのCMは昔のフィルム感を再現して、4:3で 古びた感じにしたりしていますが、「あの方向ではないよね」と、撮影監督の青島さんと話していました。それよりはもうちょっと……懐かしさは感じられるけど、古びた感じの質感にはしないほうがいいなと。今、80年代当時のものを見ればボロくみえますけど、当時は新しかったわけですから。たまたま、88年ごろに北海道に行った頃の写真が実家から発掘されたので、家の中の小物など、参考にしています。

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―― 悟にとって2つの時代が映し出されますが、時代を行ったり来たりすると、視点も変わるし、登場するキャラクターも違います。シーンの切り替え、物語の切り替えは気をつかわれるポイントではありませんか?

伊藤 大きく言うと、雛月加代と片桐愛梨とヒロインが2人いるわけです。そのバランスには結構気を使っていますね。

―― 2人はタイプがちがいますが、それぞれを描くときに監督が気をつけているのは、どんなところですか?

伊藤 これは2人共通ですけど、“女の子女の子感”は2人とも極力抑えめに、という話をしていますね。作画的もそうですし、芝居的にもお願いしています。雛月は原作ではちょいちょいデレてるんですけど、あんまり簡単にデレてくれるな、ちょっと回数を減らそうとか(笑)。

―― 愛梨ちゃんのほうはどうですか?

伊藤 1話からバイト先にいる女の子として描かれていますけど、女の子女の子している 面を悟は気にしているわけではなくて、彼女の生き方に「俺より年下だけどこいつすげえ」と、感じていると思うんですよね。恋愛対象というよりは、精神的な師匠なのかなと。いわゆるメンターですね。『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカーにおけるオビ=ワンのような(笑)。(愛梨の)立ち位置を、“指針にする人 ”としたので、彼女も女の子女の子っぽさ 出さないほうがいいかなと考えています。

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―― お話は戻るのですが、この作品は2つの時代を行ったり来たりしますし、脚本を構成されるのに苦労されたのでは、と思いました。

伊藤 そうですね。原作者の三部けい先生とお話しさせていただいて、脚本の岸本さんと相談して……省けるところは、合間をギュッとしているところもありますが、シンプルになって、物語の強度が増しているのではないかな……と思っています。

―― タイムリープものですが、同時にクライムサスペンスでもあります。何気ない一言でも、取捨選択は難しかったのではないですか?

伊藤 後々になってから、このセリフはあったほうがいいと、ちょっと戻って、シナリオを直すということは何回かしていました。序盤のシナリオの改稿が増えて、難儀しました(笑)。

―― そういう意味で、伊藤監督は、劇場アニメ『時をかける少女』に助監督として参加されています。知らずに影響された部分と、意識してココは避けようと思われた部分、両方あったのでは?

伊藤 もちろん知らず知らずのうちに、『時かけ』に影響されたところはあると思いますが……意識して止めようと思ったのは、『時かけ』ではタイムリープ中に“タイムリープ空間”とでもいう、あの作品の中では異質な空間が出てくるんですが、あれは止めようと思いました(笑)。悟がそういう空間を経てジャンプしたりはしないですし。その代わりに、『僕街』では前に起きたことを解説するようなシーンが多いので、前話の回想をそのまま入れるのではなく「リバイバル空間」なるものを作って、謎のフィルムが繋がっているような空間が出てくるように演出したんですが、発想というか、リバイバルというぐらいだから、そこに関連づけた空間で悟が思い返していると捉えたほうがいいんではないかと。

―― 悟はあの能力を「リバイバル」と称していましたが、画面も演出でリバイバルっぽく処理されたと。

伊藤 そうです、そうです。それがなぜかフィルムっぽくなっているんですけど。ただ、特に物語序盤ではカレンダーを説明する展開が多くてですね……。

―― ああ、○月○日は事件が起きる日、とか。

伊藤 そうです。これをセリフだけで説明するのは厳しいなと思って、当初は3Dで超リッチなカレンダーを作れば、視聴者の方が「カレンダーきたー!」とか、食いついてくれるかなとか考えていました(笑)。結局それは採用しませんでしたが、その発想からカレンダー的なものも含めた、「リバイバル」空間に繋がったんです。

―― 改めて、という質問ですが、作品のどこかに“ノイタミナ”ということは意識されたものですか?

伊藤 全くないですね(きっぱり)。あるのは精々、尺が短いなーとか、何とかならないかな、あと30秒だけどうにかなれば、と(笑)。ここで30秒あると、曲の入り方がもっと格好良くなるのにな、とかぐらいです。

―― では、普通に原作の良さを引き出しつつ、アニメでのプラスオンを探られていると。

伊藤 そうですね。むしろ「ノイタミナっぽさって何だろう」と考えたりもしました。ただ本作は原作コミックからして、意識せずとも、以前の「ノイタミナ」が目指していたような方向にある作品だと思いますけど。

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―― 演じられるキャストさんがたについてもお聞かせください。まず土屋(太鳳)さんと満島(真之介)さんは他キャストさんと一緒に収録されているんですか?

伊藤 あ、それは一緒に収録しています。2人だけが別の日にどうこうというのは基本ありません、この日に、という決まった日に参加してもらっています。もちろん、どうしても……ということで時間が前後したりする場合もありますが、1人だけにして、みたいなことは特段ありません。

―― アフレコも進んでいると思いますが、お2人の演技はいかがですか?

伊藤 土屋さんはなんと言うか、どこか昭和っぽい演技をしてくれるので、そこがいいなと。加えて、「悟っていい奴なんだな」という部分を出してくれましたね。人とコミュニケーションをとるために、何かを演じているというキャラクターですが、根っこはいいやつであるというのが、土屋さんの演技で表現されているのがとてもいいなと感じています。

―― スレた子どもですけど、人を助けよう、というのがある子ですものね。

伊藤 ええ、そうですね。『ドラえもん』における、のび太の現代的なアップデート版というか、ドラえもんのいないのび太みたいな子なんです。ですから、他の子たちがジャイアン、スネ夫、しずかちゃん、出来杉たちの成分をそれぞれ持っているんですけれど。10歳の悟はのび太成分の塊ですが、それを生っぽく表現するとこういう感じになる、というところを土屋さんは体現してくれていますね。

―― 29歳・悟を演じる満島さんはいかがですか?

伊藤 満島さんは格好よくなりすぎず、サラッとこなしてくれるし、かといって「こいつ、嫌な奴だな」となるギリギリ手前の悟を演じてくれていますね。むしろ「お前、大丈夫か?」と、心配になる、助けてやらないと、と思わせるような雰囲気もかもし出してくれています。物語当初の悟は、自分のことで一杯一杯ですが、物語が展開にするにつれて、他人のことまで考えるようになり、頼もしいセリフを言えるようになっていきますよね。アフレコは中盤まで進んでいますが、マイク慣れしてきた満島さんの成長が、そのまま悟の成長に繋がっているようで、いい感じだなと思ったりしますね。

―― 確かに悟は周囲に恵まれている子、人ですよね。

伊藤 そうですね、はい。それがなんとなく2人の演技にも現れているかなと思います。

―― 伊藤監督のアニメファン、原作ファン、2通りいると思いますので、双方に向けたメッセージをいただければと。

伊藤 う~ん、これが一番難しいんですよね、とりあえずはぜひ見てくださいとしか言いようがない(笑)。アニメファンを決して排除しているわけでも、アニメファンにばかり向けた作品でもないんですよね。例えば美少女とか出てきませんけど。

―― いやいや、愛梨も雛月も美少女じゃないですか(笑)。

伊藤 いえ、特徴的な語尾をつけたりしてない、ということですけど、そうでなくとも面白い作品ですよ、と強くアピールしていきたい。

―― よく批判な方向に結び付けられかねない、俳優さんの起用というのも、そういう部分に繋がっているんですか?

伊藤 それはたまたまですね。過去のノイタミナだとそういう理があった部分もあったかもしれませんが、今はそういった思い込みのハードルは、意外と低いと思っているんですよ。最初は「俳優がやっているのか」と思っても、実際見て、「意外といけてんな」と感じたら、ちゃんと見てくれると思いますから。お2 人は素晴らしい役者さんですから、全幅の信頼を置いています。最終的に「なんだ、意外とよかったじゃん」と思われればいいわけで、そこに関しての勝利ポイントは意外と低いかなと思います。

―― 最後に、伊藤監督には『ソードアート・オンライン』のイメージがあって、静と動なら動、アクションとかを上手に描かれる方という印象があったので、今回“静”のイメージがある『僕街』を描かれるのが面白いなと思ったりしたんですが。

伊藤 『SAO』はどちらかというと、自分のフィールドじゃないんですよ。かなりり自分としては無理をしていた部分があって。俺自身はアクションは苦手ですし。かといって、『僕街』が自分のフィールドなのかどうか、もしかしたらもっとアホなお話のほうが合っているのかもしれませんが、アニメでサスペンスを前面に押し出した作品は少ないと思います。サスペンス映画好きな自分としては、いろんな監督に胸を借りるつもり で、チャレンジしていきたいと思います。

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■TVアニメ『僕だけがいない街』公式サイト
http://bokumachi-anime.com
■公式Twitter
@bokumachi_anime

■放送情報
2016年1月7日(木)より、フジテレビ“ノイタミナ”ほかにて放送開始
※初回放送時間は変更の場合あり

■スタッフ
原作:三部けい(ヤングエース連載)
監督:伊藤智彦
シリーズ構成:岸本卓
キャラクターデザイン:佐々木啓悟
色彩設計:佐々木梓
美術監督:佐藤 勝
美術設定:長谷川弘行
撮影監督:青嶋俊明
CG監督:那須信司
編集:西山茂
音楽:梶浦由記
音響監督:岩浪美和
アニメーション制作:A-1 Pictures
オープニングテーマ:ASIAN KUNG-FU GENERATION「Re:Re:」
エンディングテーマ:さユり「それは小さな光のような」

■キャスト
藤沼悟:土屋太鳳 満島真之介
雛月加代:悠木碧
片桐愛梨:赤﨑千夏
ケンヤ:大地葉
ヒロミ:鬼頭明里
オサム:七瀬彩夏
カズ:菊池幸利
白鳥潤:水島大宙
藤沼佐知子:高山みなみ
八代学:宮本充

(C)2016 三部けい/KADOKAWA/アニメ「僕街」製作委員会

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