るーすぼーい『白蝶記 ―どうやって獄を破り、どうすれば君が笑うのか― 』ラストのたった2行に驚かされた! 

 読了後の後味の悪さが優れた作品であることを示してくれています。るーすぼーい『白蝶記 ―どうやって獄を破り、どうすれば君が笑うのか―』(ダッシュエックス文庫)。

 作者は、18禁ゲームブランド・あかべぇそふとつぅにて、ミステリアスな世界観を描いてきたシナリオライター。『G線上の魔王』など「この先はどうなるのだろう」と、一刻も早く先に進みたくなるシナリオを書いてきました。この作品は、そんな書き手のライトノベルデビュー作です。

 いや、たまたまレーベルがライトノベルだっただけと考えたほうがよいかもしれません。何しろ、物語の最初から最後まで「この舞台は、どういう世界なのだろう」「主人公たちはどうなってしまうのか」などなど、次々と起こる新たな事象が謎を喚起し、ページをめくってしまうのです。

 物語の舞台は、教団の運営する児童養護施設。それは人里離れた雪原の中にある施設です。教団の詳細は明かされることはありませんが、近くの寒村は信者以外も住むものの、ほぼ教団によって支配された土地のようです。

 そんな閉鎖的なコミューンで、主人公の旭と樹、ヒロインの陽咲は「兄弟」として身を寄せ合って暮らしています。彼らが暮らす施設は監獄のようなところ。その上、粗暴な指導職員の小倉は旭や樹を執拗にいたぶり、消灯後の時間に話していたとか些細なことで「懲罰小屋」へと放り込みます。もちろん、そこから出たところで独居房から雑居房へ行く気分だと旭はいいます。

 そんな職員の暴虐を施設の園長に訴えても握りつぶされ、さらに暴虐は苛烈になります。

 樹が懲罰小屋送りになり、陽咲までもが暴力を振るわれても何もできない自分にふがいなさを感じた末に、旭は不条理なこの世界から逃れる決意を固めるのです。たとえ殺人を犯してでも……。

 一冊を費やして描かれる物語は、とても狭い世界の小さな出来事です。主人公は世界を救うこともありませんし、この怪しげな教団が崩壊することもありません。この物語に絡んでくる、旭の母親を名乗る人物からの手紙……何者かも知らぬ内通者を間に挟んでやりとりされる手紙で、教団が警察すらも手出しできない巨大な組織であることがわかります。

 けれども、その教義などが明かされることはありません。描かれるのは、自らがちっぽけな弱い存在だと知った主人公が、たとえ殺人を犯してでも、自らを縛る鉄鎖を打ち砕こうという姿です。自分たちに執拗な暴虐を繰り返すしか能のない、取るに足らない男をいかに巧妙に排除するかが、多くのページを費やして描かれていきます。

 たとえそれを成し遂げたところで、幸せなどはやってこないのです。どうあがいても絶望の世界。その主人公の弱さと絶望とに、読者はたっぷりと感情移入できるでしょう。

 そして、帯に記された「ラスト10ページ、衝撃は最後にやってくる」という言葉。これは本当です。最後の最後になって、考えもしなかった方向へと物語は進んでいくのです。そして同時に、主人公・旭の不条理の鉄鎖から逃れるための試練は、まだ始まったばかりであることを知らしめてくれます。

 ラスト10ページは衝撃的ですが、その中でもホントにラストの2行。その2行で、いったい何が起こっているのか? 読者は新たな謎に直面させられます。問題は何ひとつ解決しないばかりか、ささやかな幸せすら得ることのできない主人公。この衝撃のまま物語は終わってしまうのでしょうか? ちゃんと続刊で救いがあるものだと期待したいです。
(文=是枝了以)

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