「テニミュ」とは一体何だったのか ~男が観てみたテニミュ青春☆観戦記~【Part1】

1409_tenimyu_5.jpg青春学園の面々。(ミュージカル『テニスの王子様』公式サイトより。)

 筆者には大千秋楽の1週間前、9月21日の試合チケットが用意された。本当にこれで最後なのか、果たして3rdシーズンはあるのか。そんな悲壮感漂う想いを抱えた10年来の古参ファンや2ndシーズンからのめり込んだ若いファンたちが固唾を飲んで見守るタイミングに、「テニミュは魔の巣窟……」くらいの偏見と知識しかない分際が、興味本位で貴重な座席の1つを占有することは許されるのだろうか。そんな不届き者がほぼ女性が占めるであろう会場で初の観戦、しかも全国大会決勝戦、大千秋楽前。罪悪感とプレッシャーと恐怖で押し潰されないだろうか。殺されないだろうか。あの時、LINEを既読スルーしなかった自らの過ちを後悔し始めた。すべてを錦織のせいにしたい。なお、チケット代は自腹である。

 迎えた決戦の日。21日夜の部の試合開始が迫った18時前、会場であるTOKYO DOME CITY HALLに到着した。オレたちの……いや、ワタシたちのグランドスラムは水道橋の近くにあったのか。思い起こせば、個人的にテニミュの存在を初めて認識したきっかけは、漫画『となりの801ちゃん』で“テニミュ肩”なる症状を知った時だ。“~肩”なんて野球選手くらいしか聞いたことがない。「テニミュとはどれだけ過酷なものなのか…」と戦慄して、ページをめくる手を止めたことを今でもハッキリ覚えている。そのことを担当編集女史に話してみると、「テニミュ肩は舞台の方じゃなくて、ドリライ【編注:テニミュの楽曲を歌うコンサート。ドリームライブ。】の方を制覇しないとならないですね」と冷たく返される。不安は尽きない。

 いよいよ過酷な全国大会を勝ち抜いた青学と立海が、その雌雄を決する時かと思うと身震いがしてくる。ホール前にはすでに目を潤ませた女・女・女の人だかり。完全なハーレム状態のはずだが、今日はハンターの群の中に丸腰で飛び込んだ気分だ。さっきの震えも違う意味だったかもしれない。いや、想定の範囲だ。怯むな。青春をかけた中学生たちの決勝戦に立ち会える誇らしさを胸に、意気揚々と入り口へと進んだ。

 入場の列に並びながら周りの女性ファンに目をやると、照れた笑顔ばかり。まるでデート前だ。これは…きっと、L・O・V・E。ラブってやつなんだろう。楽しみで仕方ないのが十分すぎるほど伝わってくる。さらによく観察すると、みんな気合いの入った本気メイクであることに気が付く。印象で言えばパーティーの2次会に近いような……やや上品めなファッションに身を包んで……、そうか、遊びじゃないのか。現実の彼氏や男友達と会う時より、おめかししているんじゃなかろうか。その本気度に冷や汗が吹き出す。さすがオーラが可視化された原作の頂上決戦。眼前のゲートが甘いオーラでバチバチいってる。不純なる者がこの強力なラブ結界の中に入れば、物理的に消滅しそうだ。入り口を前にして「今なら引き返せる」と何度も頭を抱えた。死ぬのか、ラブで死ねるなら良い人生だったのかもしれない、いや帰るべきだ。

 試合開始前にすでにKO寸前。そんな折れそうな心であったが、女性ファンでスシ詰め状態の会場内に2~3人の男性客の姿が目に飛び込んできた。本当に少しだけど自分以外にも男いた! ここここ、心強い。キミたちはなぜココに。即座に(勝手に)同志認定し、「健闘を祈る」と心よりエールを送った。今日からお前とお前とお前はブラザーだ! ……ココだと違う意味で響くのはなぜだ……いいだろう、受けて立ってやる。相手にとって不足はない。見てろよテニミュ。勇気付けられたオレのAir-Kブチ込んでやるぜ……! と、チケットをラケット代わりに大上段から振り下ろし、係のオネーサンに猫背で丁寧に渡したのだった。

 会場内の雰囲気はミュージカルというより、やはりアイドルのコンサートに近かった。用意された席へと進むと、そこはアリーナ前方の通路側。ハメられた。キャストが舞台を降りてファンサービスするテニミュで、男1人が特等席を陣取るのは“狙ってる”感が出すぎてて恥ずかしすぎるぞコレは。明らかに熱心なファンに狙撃してくださいと言っているような位置だ。同行した編集女史を見ると、口元がイヤラシく笑っている。コイツ……! 「これから4時間近くあるので、絶対尻が痛くなりますよ」との業務連絡も違う意味に聞こえる。

 開演前のアナウンスは、越前リョーマ(キャスト:小越勇輝)の父、越前南次郎(キャスト:森山栄治)。公演中のマナーについての諸注意のあとに発した「(ケータイの電源を切っておかないと)ケータイが桃ちゃん(桃城武)になっちゃうぞ!」のセリフで場内大爆笑。あ、もう全然ついていけない。ゆっくり助走しようかと思ったらいきなりジェットコースターだったね。出鼻で全力の置いてけぼりを食らい、不安で桃ちゃんになっちゃいそうだ。なるほど、これからテニス観戦をなさるご淑女たちは、百戦錬磨で鍛え抜かれた知識と瞬発力(主に眼力)を備えた玄人ばかりというわけですか。そうですか。すでにラジオで実況アナの試合解説を聴きながら観たい気分だ。のちに、このくだりは森山栄治が以前の桃城武役だったことを知り、状況を理解するのだった。

 いよいよ“試合”が始まる。幕が開き、ボールのラリー音がホールに響く。越前リョーマが1人で登場し、部活動(生死を賭けているが部活動です)のことだろうか、「ここに入って良かったよ」とセンチメンタルな歌でスタート。青いスポットライトの中、キッレキレの動きで踊りニヒルに笑うリョーマ。イケメンや美少女が踊るというのは、それだけで絶対的なエンターテイメント性がある。キラキラ感が尋常ではない。実に優美でカッコいい。カッコいい踊るイケメン、カッコ……あれ? 何だか歌詞がスゴい……言い回しが直球すぎていろいろ引っかかる。踊りより歌詞に神経を奪われてしまう。何だろう、この胸のざわめきは……。

 そんなザワつきを吹き飛ばすように、彼の在籍する青学テニス部のメンバーが一気に勢揃いすると、ハイテンションなオープニングナンバーが始まった。うわーすっごくキラキラしてるー! 部員たちが若さを全開にして激しく踊っているー! 眩しすぎて直視できない! 少女漫画的なキラキラ感がスウィートすぎる! 赤面しそうだ! ムズ痒いー!

「ガスッゲスッガス!」

 どうやら新曲らしく何と歌っているのか分からなかったが、とにかくサビ部分が「ガスッゲスッガス!」にしか聴こえない。で、やっぱりド直球で強烈な歌詞が耳を蹂躙していく。ザワつき吹き飛んでなかった。曲全体を通して、どストレートすぎる話し言葉がメロディに乗せづらいんじゃないの!? キャストの歌のウマい・ヘタ以前に、コレ相当歌いづらいんじゃないの!? と、あまりの言葉のメロディへのハマらなさに部員たちへの心配度が急上昇。一抹の不安が過る。まさか全編こんな感じの歌詞なんじゃ……。しかし、その後もお構いなしのハイテンションで連呼される「ガスッゲスッガス!」を何度も聴くうちに、だんだん不思議な気分になってくる。歌いたくなるのだ。「ガスッゲスッガス!」と。マズいぞ、日常生活で口ずさみそうだ。職場とか台所とかで。これが噂のテニミュソング……恐るべし! ガスッゲスッガス!

 このパートで個人的に目を引いた部員は、桃城武(キャスト:石渡真修)。はち切れんばかりの健康的な笑顔のパワーが圧倒的だった。序盤から全力で踊りを楽しみ、舞台にかける一生懸命さがしっかり伝わってきた。あまりに笑顔が眩しすぎて、女子だったら恋愛ポエムでも書き始めてしまいそうで危うかった。

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