「テニミュ」とは一体何だったのか ~男が観てみたテニミュ青春☆観戦記~【Part1】

 場面転換して、主人公の父・南次郎が登場。おどけた振る舞いで客席通路を練り歩き、(南次郎には見えていない設定の)観客にユーモラスに絡んでいく。青春真っ盛りでウブそうな青学メンバーとは対称的に、大人の余裕漂うトボけたセリフと身のこなしがセクシーだ。そこへリョーマも客席に登場。どうやら爆発的なパワーを引き出す「無我の境地」をさらに押し進めた最終奥義「天衣無縫の極み」を会得するため、奥義の開祖である父の元へと修行しに来たという。すると、舞台のバックモニターが大きな滝の映像に切り替わる。両者が滝を挟むように対峙し、父の教えで木の枝をラケット代わりに対岸に届くまで石を打ち続けるリョーマ。テニミュの舞台では実際にボールや石をラケットで打つことはないが、キャストの動きと打球の効果音をシンクロさせて表現していた。

 リョーマのスマッシュする身のこなしが実に美しい。さすがテニミュ最多出演回数を誇り、「プリンス・オブ・テニミュ」の異名を持つ2ndシーズンの若き座長・小越勇輝の実力。麗しの王子の品格だ。跳躍力も高く、腕の角度やラケットの振り抜きもいちいちカッコいい。全力で休みなく飛び続ける。序盤でその運動量の多さは大丈夫なのかと心配になるほどのキレ。なかなか対岸まで石が届かないが、諦めず打ち続けるリョーマの姿を観るうち、だんだんそこに存在しないはずの石が見えてきたような気がした。なかなかできない息子に痺れを切らした南次郎はその辺に落ちていた木の棒で石を打つと、リョーマのいる対岸まで光弾のようなスマッシュを放つ。インパクトした瞬間に爆発するような光の演出で、波動拳まがいのスマッシュを再現。これは、必殺技が飛び交うであろう試合の演出にも期待度が上がる。テニスなのかどうかは、とりあえず考えないことにした。修行中、リョーマが滝壺に落ちて意識を失い、水の中で胎児に戻るような印象的なシーンでは舞台装置を使った大掛かりな演出も見どころだった。

 そして迎えた全国大会決勝戦の朝、青学メンバーそれぞれがこれまでの想いと意気込みを胸に決戦の場へと向かうシーンに。トーナメント中に負傷し、入院中の河村隆(キャスト:章平)が部員に大きな応援旗を押し付けられ(奮起の意味も込めている)、ほぼ諦めの境地で豪快に旗を振りながら病院を抜け出すシーンでは、キャスト間のアドリブで笑いが起きる。このニュアンスは初見だと見極めが難しかった。かろうじて分かったのは、桃城武が自転車のタイヤに空気を入れて「50、80、喜んで!」のかけ声とともに走り出したくだり。どこのCMだ。観客から爆笑と歓喜の悲鳴が上がり、明らかに萌え死にしそうなファンたちが方々で墓標を立て始めた。これがテニミュの破壊力か……息を飲んだ。その後もしばらく「喜んで!」の衝撃で客席がザワついていたことは特筆しておこう。

 テニミュといえば、1日2回公演を昼・夜立て続けに観るなんて、ファンからすれば基本中の基本らしい。内容はもちろん変わらないのに、だ。それに加えて「遠征」も盛ん。民族大移動のように、テニミュと一緒に各地を転戦しながら男の子たちのキャッキャウフフな様を舐め取るように鑑賞していく。それはすみずみまで見逃したくない彼女たちの執念によるものだが、そのことにより各公演の細かなニュアンス、アドリブの違いが極上のスパイスとなっていくのだ。さらに、テニミュには公演を重ねていくことでキャストの成長、チームワークの変化、そして最後に待つキャストたちの“卒業”も含めて、テニミュのストーリーとリンクさせながら観るという、非常に複雑極まりない楽しみ方がある。この辺の嗜み方は、茶のたて方1つで味の変化や心の所在を見極める“茶道”の域か。この例えを書いた筆者にももうよく分からない。つまり、同じ内容の公演でも1回観て終わりではないのである。

 青学・手塚国光部長(キャスト:多和田秀弥)のソロパートから始まった「ウィニング・ロード」では、青学メンバーに決勝の対戦相手・立海のメンバーも次々と加わり、リレー方式で歌い回しながら場内の熱を上げていく。最後は2校に分かれた対決図がビシッとキマり、次の展開の期待感を煽った。

 全国大会の会場に辿り着いた両校の前に、テニスコートがついに現れる。数々の死闘が繰り広げられた場所なのかと思うと、客席から見ても感慨深い。ここで、青学に事件が起こる。リョーマが決勝の会場に向かう途中、軽井沢付近で行方不明になったという。何だそれ、方向音痴か! と心の中で突っ込むものの、起きてしまったことはしょうがない。「越前抜きで決勝を戦うのか……」と青学に絶望感が広がる。桃城は居ても立ってもいられず「オレ探してきます!」と軽井沢に走って向かっていく。走るのか。

 そんな愚直すぎる桃城の前に、ライバル校の氷帝学園中等部テニス部部長にして財閥の御曹司・跡部景吾(キャスト:小沼将太)が現れ、粋な計らいを見せる。ババババババ、舞台のモニターに空飛ぶヘリが映し出される。リョーマ捜索のため、ヘリを用意したのだ。中学生が中学生をヘリで捜索し始めた。テニミュ初心者だとしても、跡部王国に突っ込むのはもう野暮だろう。果たしてリョーマはどこに居るのか!? 何で道に迷うんだ!  そして、目視で頑張れ桃城!  安全運転でお願いします跡部様!

 だが、時は無情だった。時間は待ってはくれない。全国大会決勝戦の火ぶたが切られたのだ。焦る青学の前に、常勝を義務付けられた最強王者・立海が立ちはだかる。一番手は、青学の手塚と立海副部長・真田弦一郎(キャスト:小笠原健)の戦い。ついに、達人同士が命を削る“試合”が始まったのだった。お互いを牽制するようにセリフを交えながら展開するラリー戦。な、何、何だコレ……激アツ!

 正直な話、ここまでは“こそばゆい”で済ませられるレベルではない赤面必至の歌詞と、イケメンたちがちょっと無縁すぎる次元のキラキラ度全開で爽やかに踊る姿にはジャニーズにもスッと入れない男としてはコッチが気恥ずかしくなってしまい、1歩引いて観ていた。しかし、初めて眼前で繰り広げられたテニミュの“試合”。一進一退の攻防、手に汗握る真っ向勝負。無口だが、静かなる情熱とスーパーマンばりの強さを感じさせる手塚部長の佇まい。鬼神のごとき強さを見せる真田の重厚感。見える、見えるぞ。激しいラリーが手に取るように見える……! 筆者のテニミュはここから始まったのだ。

 重厚さと威圧感のある声で、公演を通してストーリー全体を引き締める役割を担っていた真田。その迫力のある声、いい。俄然少年誌のアツいテンションまで引き上げられる。キラキラウフフになりかねないステージをオトコ臭く締め、強力な1本の芯になっていると感じた。

 真田の猛攻が始まる。次々と繰り出される「風林火山」の必殺技。舞台のライトとバックのスクリーンを効果的に使い、真田の妙技が再現されていく。しかし、手塚もキレのある動きで冷静に対応。激しく力強い打球音が思わず手に汗を握らせる。業を煮やした真田は、「動くこと雷霆の如し!」と手塚との対決の日まで隠してきた“風林火山”の奥義「雷」を放つ。コートに稲光が走る。カ、カッコいい!

 動揺する青学と客席の四天宝寺中学校(以下、四天)のメンバー。決勝戦中はちょいちょい試合を見守る外野(青学・立海・四天それぞれのスタンド)から、分かりやすいようで分かりにくい解説が入る。あの手塚でも雷のような高速の打球になす術がないのかと悲壮感に包まれる場内。観客も不安気だ。とどめの1発を放とうとする真田。だが、手塚には切り札があった。相手のリターンを自分のゾーンに引き寄せる技「手塚ゾーン」を逆の原理で利用して、相手のリターンがすべてアウトになってしまう技を繰り出し、真田の打球はコートの外へ。ベンチから勝手に「手塚ファントム!」と命名されたその新技で反撃に出る手塚。真田の返球はことごとくアウトとなってしまう。カ、カッコいい! 技がキマる度に「手塚ファントム!」と叫びたくなったというか、もうすでに口から出ていた。

 しかし、新技による身体への負担は大きく、徐々にボロボロになる手塚。「お前はもう限界だ」と青学の副部長・大石秀一郎(キャスト:山本一慶)が手塚を心配する歌を歌い出す始末。真田も「雷」の影響で足が動かなくなり始める。あまりのアツい試合展開に息を飲んだ。真田は真っ向勝負でぶつかり続けるが、勝負に非情な男にして立海の部長“神の子”幸村精市(キャスト:神永圭佑)の指示で「雷」を一時封印、手塚に「手塚ファントム」を打たせ続ける。試合は長期戦の様相を見せたが、真田がついに手塚にとどめを刺す。コートに倒れる手塚。青学部長が敗れたのだ。

 勝者の真田は足を引きずりながら、倒れた手塚に歩み寄り「もうお前とはやらんぞ」と言って手塚を起こす。カ、カッコいい! 手塚はボロボロになりながらも、リョーマが会場に辿り着くまでの時間稼ぎをしていたのだ。カ、カ、カッコいい! 真田のセリフが決勝戦にも、大千秋楽へと近付く2ndシーズン全体にもシンクロしていく。このシーンで涙するファンもチラホラ。スゴいなテニミュ。

 そこへ、跡部ヘリの力でリョーマが到着。しかし何とか会場に辿り着くも、リョーマは記憶を失っていた。ここで記憶喪失かい! と、たぶん場内でたった1人展開を把握してない筆者のみが速攻で突っ込んだことは間違いない。「ココはドコ?  私はダレ?」状態で純粋無垢な子供に戻ってしまったリョーマ。小越勇輝のピュアボーイな演技がまたカワイイ……。ここでも場内のそこかしこで墓標を確認することができた。もう何かスゴいなテニミュ。

 全身をフルに使って踊り、戦神のごとくラケットを振り続け、コートの上で汗だくの真剣勝負を繰り広げた手塚と真田。まさに満身創痍の死闘であった。舞台上で起きたそれは、間違いなくテニス。テニス以外の何ものでもなかった。本当にカッコ良かった。その頃には担当編集の「どうですか…?」の問いに、迷いなく「見えないボール見えてますから!」と応じる自分がいたのであった。

~続く~
(文/ノグチアキヒロ)

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