舞台俳優が俳優人生でもっとも輝いたのは再現VTRへの出演！ その過酷な生活の実態をつづる

• ツイート
• 

――“上京ドリーマー”だった元俳優が綴る、“舞台裏”で起こっていたあんな事やこんな事。

『心ゆさぶれ！ 先輩ROCK YOU』（日本テレビ）公式HPより。

　はじめまして。私はついこの前まで東京で俳優をやっていましたSHINOBU（しのぶ）と言います。

　俳優をやっていたと言いましても、名前を聞けば顔が出てくる程、有名ではありません。活動の場は主に舞台でした。舞台にもテレビと同じようにエキストラ的な役がありますが、そんな中では、私は比較的大きな役を任されていたんですけどね。

　俳優人生の中で一度、テレビのお仕事をもらったこともあります。『心ゆさぶれ！ 先輩ROCK YOU』（日本テレビ）というトークバラエティで、自動車の塗装で世界一に輝いた方の再現VTRへの出演でした。しかも、“主役”という大役をいただきまして、スタッフの方から放送日を聞き、それはもう普段連絡を取っていない友人の隅々まで「再現VTRだけど、主役で出演してるよ」と連絡しまくりました。放送後、再現VTRではあったものの、携帯に何本も連絡が来たり、何通もメールが来たりと、私の俳優生活がフィーバーした瞬間でもあったと思います。密かに、そのVTRを見た超大物プロデューサーから映画の出演オファーがあるんじゃないかとも思いましたが、まあ、そんな事はありませんでしたね……。

　さて、まず最初に、俳優時代、私がどんな生活をしていたのかお話したいと思います。きっと、上京した大多数の俳優は同じ状況に陥っていることでしょうが、舞台やテレビの仕事だけでは食べていくことはできません。みんな、アルバイトに励んでいました。私ももれなく、そのアルバイトに勤しんでいたひとりです。

　家なんですが、皆さんは夢を追うフリーターがどんな部屋に住んでると思いますか？　四畳半？　風呂なし？　トイレ共同？　その通りです。いや、ほかの人がどうだったかは知りませんが、私の場合はそうでした。ほとんど寝るためだけの部屋だったので、広さは問題ありませんでした。一番問題だったのは、そう……風呂です。最初は畳が濡れないように台所に乗り上がって洗い流していました。その格好があまりにも情けないというか、無様だったので、次回からはブルーシートを敷きまして、濡れたタオルで汚れを拭き取るという手法に変えました。ですが、自分の体を“洗いきる”という感覚を味わえないため、「バイト先の人から臭いと思われてたら、ヘコむな」と思い、週に１回は銭湯に行っていました。湯船に浸かるというのは、実は高尚で心身ともに疲れを癒し、明日への活力になるのだと、風呂を失って初めて風呂の偉大さに気づくわけです。

　そして、食事は当たり前ですが自炊です。駆け出しの俳優志望が、外食なんてできるはずがありません。私は月に1週間は近くの100円ローソンで売っていた高野豆腐を食べ続けていました。最初は「いい節約術を体得したなぁ」と思っていましたが、後半はどんな味付けをしても、スポンジを齧っているような感じになっていました。アルバイトの収入が多い時は、閉店間際のスーパーに行き、半額シールの貼ってある惣菜を買って食べていました。私にとっては本当にささやかな贅沢でした。

　……と、私生活はこの通り、いわゆる“上京ドリーマー”がやっていそうな通常の貧乏生活です。肝心な俳優のお仕事ですが、もちろん最初からあったわけではありません。アルバイトをしながら合間にオーディションを受けに行きますが、落ちます。ことごとく落ちます。大学の時から舞台に立っていたのである程度は経験があったのですが、最初は絶望的に落ち続けました。そこで一度、一から演技の勉強をしたほうがいいと思い、ある劇団の俳優養成所に通い、その後、そこで知り合った友人らの伝手などありまして、俳優のお仕事を始めるわけなのです。

　次回からは、舞台俳優たちの裏の顔や、制作の裏話などをこっそりお伝えしていきたいと思います。

●SHINOBU
1983年、兵庫県生まれ。信州大学卒。「劇団山脈」出身の元俳優。同劇団では、脚本、演出も担当した。震災をテーマにした「関西少年」が話題となり、地元のテレビや新聞に取り上げられる。出演した主な舞台に、『水の話』（演出：中嶋しゅう）『血の婚礼』（演出：門井均）「黄金の刻」（演出：なかにし礼）「アセンション・ミロク」（演出：上杉祥三）など。