【ルポルタージュ】コスプレイヤー……それは、ただの現在に過ぎない自分。『アスペちゃん』そして、オフパコマンガ。赤木クロの目指す世界

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 高校生の時のアルバイトを皮切りに、働いてお金をもらうようになってからのエピソードは多い。いくつものバイト先を「やる気がないなら辞めて」と言われ、言葉通りに受け取り、その場で「じゃあ辞めます」と返すと、お説教が始まる。理不尽な人間関係や社会を恨んだり落ち込んだりはしても、引きこもることもしなかった。人生で初めてのアルバイトは「家から歩いて行けるところにある」理由で選んだ、マクドナルドだった。

《続かなかったですね……笑顔が足りないとか動きが変とお客さんに怒られたりして。その次はファミレス。それから、薬局とか。一番続いたのは、マンガ喫茶かな。あまり人と関わらなくてよかったから……》

 決してコミュニケーション能力が低いとか、人と普通に会話をするといった社交性がないわけではない。言われたことを額面通りに受け取ってしまう特性が時に軋轢を生むのだった。

《事務のアルバイトをしている時ですね。ほかの部署の人が仕事をしながらケーキを食べていたので、じゃあいいかなと思って、じゃがりこを食べていたら「うるさい」って怒られて……。「今すぐ処分してこい」と言うので、廊下で全部食べたんです》

 その時、赤木は思った。「ケーキを食べながら仕事をしている人がいるんだから、じゃがりこを食べながらでもいいじゃないか……」。

《あと自分の仕事が終わったらお昼寝したり、定時退社をすると怒られたりもしましたね。「自分の仕事が終わっているならいいはずなのになんでだろう?」と非合理的なことを言われたままにやってる周囲がおかしいと思いつつも、合わせなきゃと思うとつらかったですね》

 注意されて従いながらも「なんで?」という疑問は常につきまとっていた。「自分の仕事が終わっているならいいはずなのになんでだろう?」と非合理的なことを言われたままにやってる周囲がおかしいと思いつつも、「合わせなきゃ」と思う職場は辛かった。一般社会では「空気を読む」ことが、過剰なほどに求められる時代にあって、赤木のアスペルガーゆえの超合理的な感性は必ずしも受け入れられるものではなかった。でも、彼女は幸運だった。

 通例、こうした特性の持ち主は、学校生活でも孤立したりしがちである。でも、いつでもどこか前向きな赤木は、そうはならなかった。初めてのコスプレは友達に誘われてだった。小学校6年生の時のことだ。クラスの中でもイケているクラスメイトからは「ちょっと変な子」と言われていた。でも、すでにオタクな趣味が開花し始めているクラスメイトは、赤木のことをそうは思っていなかった。毎日、マンガやアニメの話をしているうちに、地元で開かれるコスプレイベントにお揃いの衣装で出かけようと誘われた。

 断る理由はなかった。

 友人が提案したのは『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波とアスカの制服だった。すぐに貯めていたお年玉を握りしめて、衣装を売っている店へ行った。それから「写ルンです」を買って二人で出かけた。「デジカメだと、親に見られたら恥ずかしい」と思って買った「写ルンです」だが、現像する時に店の人に見られることのほうが恥ずかしいと思って、その次からはデジカメを持って行くようになった。

《その友達は、小中がずっと一緒で。高校は別になったんですが、同じ電車で通学していました。凄くお世話してくれて、今思うと、その子の兄弟が同じように発達障害だったから、私にも優しくしてくれたのかもしれません……》

 ちょうど「ニコニコ動画」が新たなムーブメントとして定着し、オタク文化が下の世代へとより広く、縦にも横にも広がっていた時代。もとより両親の影響でオタク文化に慣れ親しんできた赤木にとって、世界が広がっていくことは、このうえなく魅力的だった。

 誰もが作品を作ったりするのが当たり前に楽しいことになり、世間に公開することも容易にできるようになっていた。だから「これは面白い」と思ったことは、なんでも試した。友達と交換日記ならぬブログの共同運営もした。「ニコニコ動画」に「踊ってみた」をアップしたりもした。

 同人誌という未知の世界を知ったのは、中学生になった頃だった。

《最初は、たまたま本屋さんで『テニスの王子様』とか『家庭教師ヒットマンREBORN!』のアンソロを見つけたんです》

 絵柄も違うけど、分厚いしなんなのだろうと不思議に思いながら買った本。家でページをめくってみると、ドキドキしながらも引き込まれた。慣れ親しんでいるキャラクターが作品によって、さまざまなタッチで今まで知らなかった物語を繰り広げる。全年齢なのに、女のコならばドキドキしてしまうようなページもある。

 それが同人誌というもので、同人誌即売会にいけば、もっと薄くてさまざま種類の本を買うことができることは、すぐに知った。

 幸いにも、首都圏の街ゆえに情報もすぐに入った。最初に出かけたのは「HARU COMIC CITY」だった。圧倒的な人の群れに驚きながら『遊戯王』『ジョジョの奇妙な冒険』『賭博黙示録カイジ』の同人誌を買った。

 読むだけでは満足できなくなり、イラストも描くようになった。友達と交換マンガをしたり、pixivのアカウントを作って、他人に見せるようにもなった。でも、ちゃんとしたマンガを描こうという気持ちにはならなかった。同じ時期に楽しくなっていたコスプレの反応が良くて、そちらのほうが心が弾んだからだ。

 でも、そのコスプレも趣味の範疇は出なかった。前述のように、今ではTwitterに新しい衣装の写真を公開するだけで話題になる赤木だが、この路線になったのは、つい2年ほど前のことだった。それまでは、ごくごく地味な「普通のコスプレイヤー」。あまりイベントに熱心に参加するわけでもなく、友達とコスプレ合わせをしたり、気心の知れた友人とスタジオで撮影する程度だった。

 それも、楽しいことばかりではなかった。

 男女問わず、コスプレという共通の趣味を通じて友人は増えた。ただ、その中には友人と呼ぶには、どこか首をかしげたくなる者もいた。とりわけ、人前では赤木との仲の良さをアピールしてくる、ある女性コスプレイヤーがそうだった。赤木は友人として、対等に仲良くしているつもりなのに、言葉の端々で自分のことを下に見ているのに気づいた。なぜ、自分が下僕のように扱われているのかと思うと、どうしようもない気持ちになった。

 いろいろと思い悩んだが、赤木が行動を起こすよりも前に、ある時その女性コスプレイヤーがとある事件に巻き込まれたことで縁が切れた。ふと、コスプレへの情熱も途切れかけた。

《でも、一人になったら凄い心が楽になったんです。その時、タイミング良く的確なアドバイスをくれる方も現れて……だから人に引きずられて、流されるのではなく、自分一人でやってみようと思って》

 それまで、赤木はコスプレを楽しみながらも、どこか受け身だった。でも、もっとどこまで頑張れるかを試してみたくなった。「今、自分にできることはなんだろう?」。そう考えて、導き出された答えは、シンプルに自身の実力を上げ、知名度とバリューを上げるということだった。露出の高い衣装を着るのは好きなキャラが「セクシーでレオタード系の衣装を着たキャラ」というのもあるが、「若いうちにきれいな肌を見せなくては意味がない」という赤木のいうところの「超合理主義」の発想から出たものだ。

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