【ルポルタージュ】コスプレイヤー……それは、ただの現在に過ぎない自分。『アスペちゃん』そして、オフパコマンガ。赤木クロの目指す世界

【ルポルタージュ】コスプレイヤー……それは、ただの現在に過ぎない自分。『アスペちゃん』そして、オフパコマンガ。赤木クロの目指す世界の画像9

 いわゆるこの「露出」というジャンルに足を踏み入れる時に、多くの人が躊躇するのは、そうした趣味の持ち主以外にバレることだ。「親バレ」「職場バレ」……。さまざまな要素が、そこに一歩踏み出すことを躊躇させる。でも、赤木はそうしたハードルを驚くほど簡単に越えた。

《バレて怒られるみたいなことは、今でも考えていません。もの知らぬ浅はかな者どもがあれこれと世話を焼きたがり、毒にも薬にもならない駄菓子如きの助言をする人もたくさんいましたが……老後のオシメの世話までしてくれる人の言うこと以外聞くことはないかなと(笑)。発言と行動がブレてる人で成功している人を見たことがないですし。

 若い時期の体の魅力は女の財産であり武器だと思っています。各自が自分の持っている能力、顔の良さやセクシーさで惹き付けるのも何でもありかと。持てる武器をすべて動員して……あとで風呂敷を畳めばいいやと思っています》

 一度やろうと決めたからには努力は惜しまない。この2年あまりで制作した「コスROM」も結構な枚数になった。売れるためには、もちろん流行しているキャラクターの衣装を選ばなくてはならない。でも、写真というのは不思議なもので、人気作品のファン層への媚び狙いが先行して作品自体をよく知らないとか、好きでもないキャラクターの衣装を着ると、どことなくわかってしまうものだ。だから、流行と好きなものを選ぶのとは違う。

 撮影の時も、カメラマンに指示されるがままの人形になっていては、満足いくものにはならない。普段から、どういうコンセプトで、どのように撮影してもらうのか。考えるために割く時間は多い。ほかのコスプレイヤーのポーズを参考にしたり、同人誌やエロマンガも買って「いかに魅せるか」を考える。そうして集めた資料フォルダを持参して、撮影へと臨んでいる。もちろんカメラマンは、コスプレの撮影に慣れた信頼できる相手。それでも、自分の意志を明確に伝えなければ、人が手に取ってくれるような作品はできないと信じている。

 そうした努力の結果として「人気コスプレイヤー」と呼ばれるようになった。でも、ある種「性」を売り物にしているがため、当然のことも起こる。Twitterには、ときどき「ヌキ報告」であるとか、性行為を要求するようなメッセージも届く。だからといって、萎縮したりはしない。その証拠に、少し遠慮がちにそのことを尋ねた時、赤木は苦笑するように、でも正直に気持ちを語ったのだ。

《直接的な表現は困りますね。なぜって……「めっちゃヌケました」と言われても、つまらない言い方だと返事の仕方が難しいじゃないですか。もっと、エンタメ性をもって面白い表現で言ってほしいな。ダイレクトメッセージで局部の画像を送ってくる人もいます。やっぱり困るのは、返事のしようがないことですよね。そんなことをする暇があるならリツイートして私を広めてほしいですね……。あとは女の子の嫌がることをして反応をもらいたい“小学生の恋愛的”精神構造だとモテないからやめときなって言いたいですね。何事も素直に褒めること、女の子への前戯は「ふぁぼリツ」から始まっているんだぞと(笑)》

 人生は常によいことばかりではない。そうした困惑も、赤木自身が注目されていることのひとつの証左。それで折れてしまうような弱さはない。それらの体験は、また赤木に新たなやる気を引き起こした。

 先に記した、レイヤーが凌辱されるエロマンガを自分で描くという挑戦も、露出をする決断がなければ、あり得なかった。

《ネタがレイヤーのマンガになったのは、私が描けばみんな「実体験かな?」と思ってくれるかと思ったんです。それも即売会の時は、同じ衣装で売ればもっと面白くなるかなって。ただ、自分の写真を入れないと、サークルを手伝ってくれる男性陣たちが影の原作者と思われるかなと思って……》

 読者に「実体験かな?」と思わせるような赤木の描くエロマンガ。もちろん、その内容はフィクションである。登場人物がことごとく、ひどい名前なのは赤木ならではのシャレであり気遣い。

「実在する人のいる名前ではダメ……」と、考えた結果生まれたのが、あり得ないほどにダジャレを含んだひどい名前。でも作中の登場人物に「モデルみたいな人はいる」のも事実である。華やかさとセクシーさばかりが取り上げられるコスプレイヤーの世界。でも、光あるところに影があるのは必然。赤木が気づいた、さまざまな影が作品に反映している。そうした物語を描きたくなるのも、はたまた、独特のセリフ回しも、これまでの赤木の経験の積み重ねの結果だ。

《小学生の時から、推理小説が好きで。東野圭吾の『白夜行』も読んでいました。ああいった、男女の愛憎のもつれとか……情念が陰惨に絡み合う物語になぜか惹かれてしまうんです》

 メディアの種類を問わず、そうした物語に惹きつけられてしまう。アダルトゲームも愛好しているが好きな作品は三角関係が描かれる『WHITE ALBUM2』。そして『月姫』、『沙耶の唄』、さらには『さよならを教えて』……。おおよそ愛憎や情念、陰惨さを描く物語性が評価された作品は、どれも忘れられないものばかり。ちなみにラノベは『冴えない彼女の育てかた』が一番好きらしく、ここにも赤木の趣味趣向がうかがえる。そうした蓄積が、絵や文字になってあふれ出している。

 結局「人気コスプレイヤー」という肩書は、今の赤木のごくごく一部を説明する肩書に過ぎない。それに、その肩書きも完成したものではなく「現在」の赤木を説明しているだけだ。

 いま、赤木がコスプレ以上に情熱を燃やそうとしているのは、マンガだ。もちろん、まだ赤木の作品は発展途上。評価してくれる者は少ない。即売会で「コスROM」を買い求めるファンであっても同様だ。そのことを赤木は「超合理的」に、驚くほど冷静に見ている。

《正直なところ「まあマンガも、買うか」と思って買ってくれる人はいるけど……めちゃくちゃ売れているって感じではないですね》

 今は、コスプレで注目してもらえているかも知れない。でも、その人気はともすれば若さと共に失われていく刹那に過ぎないことを知っている。だから、できる限りの芸を身につける努力は怠らない。

《Twitterでふぁぼやリツイートしてくれた人には、お礼の気持ちでお礼ふぁぼとリツイートするようにしています。なぜかって、自分もしてもらいたいから……どのジャンルでも盛り上げたかったら、そうしないと盛り上がらないじゃないですか。だから、自分は率先して自分からリツイートしたいなと思っているんです》

『砂の器』であるとか『木村政彦外伝』など、自分が感銘を受けた作品のことをツイートするのも、自分の「好き」をもっと広めて、盛り上がりたいからにほかならない。そして、その盛り上がりは、また赤木の情熱に火をつける。

 控えめな赤木は「オタクとは話せるけど、オタク以外とはなかなか話せない」という。でも、内側で燃える絶えない熱は、まったくそれを感じさせない。『アスペちゃん』で記されているように、アスペルガーの視覚と聴覚は過敏。それに、知らない人に会うこと、人前で話すこと、人の顔を覚えるのも苦手だ。大勢の人が集まる即売会は、快適な空間ではない。光に過敏な特性ゆえに、太陽のまぶしいコスプレ広場も決して快適なところではない。でも、赤木はそこに自ら足を踏み入れる。なにか、自分の焚きつけてくれる出会い。そして、まだ見ぬ未来への希望を求めて。

 でも、そうした自分のことをマンガで描いてからは変化もあった。いつも「コスROM」を買い求めたり、撮影してくれるファンはTwitterの画面や、名札を見せて挨拶してくれるようになった。コスプレから、マンガへと一歩進んだことで、確かに状況は変化しようとしている。そしてまた、赤木の情熱は増す。今の目標の一つは、商業誌に掲載されるようなマンガを描くことだ。

――数時間続いたインタビューの終わり頃に、赤木は今描き始めているというマンガの原稿を取り出した。私も、隣に座っていた編集者もマンガを読むことは多くても、人にあれこれと指図するような力量は持ち合わせていなかった。だから、うまい言葉を紡ぐことができなかった。

 ただ、まだ稚拙さも見える原稿に目を投じていると、どこからともなく「これを、もっと読みたい」という気持ちが湧いた。原稿からは赤木自身の、さまざまな感情がないまぜになった、なにかを伝えたい意志。そして、マンガを描きたいのだという想いが、とめどもなくほとばしっていた。テーブルを挟んで対面に座っている、まだ、幼さも残る一人の女性。時に、社会との折り合いに悩みながらも、自分の意志は曲げることなく形にしてきた、赤木クロという人物。

 この日の取材に備え、「一週間ほど前から、なにを話そうかとメモをしていた」という誠実な乙女。そんな赤木が、ペンと紙とに集中した時に、なにが起こるのだろうか。その先を見たい……部屋の中は、そんな感情に満ちていた。

 赤木は、少しはにかみながら、呟いた。

《レイヤーはあと何年かやって……》

 そして、言葉を続けた。

《マンガは、今後もずっと描けるものだから、いいなと思っています》

 自分をここまでにしてくれたコスプレ。それを称賛してくれるファンへの感謝は尽きない。

《コスプレの写真を見て、マンガを読んでもらえるきっかけになればいいな》

 コスプレは、いわばまだ見ぬ天地へと向かう風。暖かい風を帆いっぱいに受けて、赤木クロという船は、まだずうっと先へと進んでいく。その目的地が、心躍るものということだけは、間違いない。 

(文=昼間 たかし)

☆赤木クロイベント出演情報
12月29日 コミケ1日目東ネ23b たんぽ亭(コスプレROM)
12月30日 コスホリック G11-12 赤木荘(コスプレROM)
12月31日 コミケ3日目東ク18b 赤木荘(同人誌)

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