【ルポルタージュ】コスプレイヤー……それは、ただの現在に過ぎない自分。『アスペちゃん』そして、オフパコマンガ。赤木クロの目指す世界

 マンガやアニメなどのキャラクターの衣装を身につけるコスプレが、ビジネスとなってから長い。人気コスプレイヤーは趣味の枠を超えて職業となっている。雑誌の表紙やグラビアページを飾ったり、テレビ番組に出演するコスプレイヤーも、当たり前のように見かけることが多くなった。

 近年、企業の新商品の発表会や映画の試写会では「インフルエンサー」と呼ばれる人が招かれることがある。TwitterやInstagramなどのSNSで、多くのフォロワーを持っている人のことだ。そうした人々の発信力は、これまでになかった形で大衆に購買意欲を湧かせ、劇場へと足を運ばせる。コスプレイヤーもまた同様だ。テレビの情報番組やネットで、新商品や新作品の話題では当たり前のように「来場したコスプレイヤーの○○さん」という表現が使われるようになった。

 毎年、夏冬に開催される世界最大の同人誌即売会であるコミックマーケットはコスプレ参加者も多く、今やコスプレを単に見せるためだけの場ではない。サークル出展し、自身のコスプレ写真を収録したDVD写真集……DVD-ROMを用いていることから「コスROM」と呼ばれるモノを頒布するコスプレイヤーの数は、10年前とは比べものにならないほどに増えている。その中には、露出度の高い衣装を身にまとい、セクシーなショットを収録したものをサークルのスペースに並べるコスプレイヤーも多い。

 かつては、コミックマーケットの作法を知らぬ者がトラブルを起こすこともあったが、今はコミックマーケットの理念の中で表現するためのジャンルの一つとして確立している。セクシーな内容のROMの被写体となる当人たちは「露出レイヤー」などとも呼ばれる。取りようはさまざまある「露出」という言葉だが、それは性別を超えた一種の夢と憧れを包容した言葉。マンガやアニメのキャラクターをベースにした、セクシーな写真。それを媒介に、興奮や称賛が生まれ、交流が始まる。

 そうしたコスプレイヤーとファンの交流の中でも、赤木は独自性を放つ。多くのコスプレイヤーがファンとの交流に使うのは、Twitterだ。誰もが毎日、セクシーな画像を公開したり、制作している衣装のことを語ったり。あるいは、アニメや食べ物などの話題を振りまく。赤木もまた、そうした話題を綴るのだが、時に驚くような話題を挿入する。ある時、観賞して面白かったと記した映画は『鬼畜』。そして『砂の器』。さらに、楽しく読んでいる本として挙げていたのは、増田俊也の『木村政彦外伝』。

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 もちろん、どれも面白い映画であるし、読みふけってしまうノンフィクションであることに異論はない。でも「可愛い」だとか「セクシー」というキーワードでファンを獲得するコスプレイヤーがツイートするようなものには思えない。作為的に特異なキャラクターを演じているのだろうか。もしも、演技ではなく本当に好きなのだとしたら、その個性は誰にも真似できない赤木だけが持ち得る魅力。それこそが、彼女が徐々に注目されている本当の理由なのではないか。そんなことを考えて取材の前から期待はやまなかった。

 もともと「この赤木クロさんを取材しませんか?」と、このページの担当である女性編集者が言い出したのも、彼女自身が赤木だけが持つなにかを感じ取ったからである。

 それは、今年の夏のコミックマーケット2日目のことだった。「なにか、ネタを探して書きましょう」。単なるレポートとは違う独自性のある切り口の記事になるネタを要求する編集者と足を運んだのは、コスプレイヤーたちが「コスROM」を頒布している「島」だった。その数カ月前に『アスペちゃん』を取り上げた海外メディアの記事を読んでいたが、どういう人物なのかは知り得なかった。

 人混みをかき分けてたどり着いた赤木のスペース。少し長くなった行列に並び、自分たちの番が来る。編集者が挨拶をして、話をしている最中に、何枚かの「コスROM」を手に取った。コミックマーケットのために準備していた500円硬貨で代金を支払う。

《ああ、500玉……私もしてるんです、500円玉貯金》

 なんでそこに注目したのだろうと思い、ふと目線を下げると「コスROM」よりも一段低い場所に並べられていた同人誌が目に入った。

『パコり手のバラッド』というタイトルの記された本を手に取る。それは、ゲーム『Fate/Grand Order』の水着ネロの衣装を身にまとったコスプレイヤーが凌辱される18禁の同人誌。独特のタッチの絵には、不思議な魅力があった。なによりも、“現役レイヤーが、レイヤーが凌辱される同人誌を売っている”こと自体が、数万のサークルが無数の同人誌を頒布するコミックマーケットでも見たことのない光景だった。

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※画像は編集部で加工しております

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