【ルポルタージュ】コスプレイヤー……それは、ただの現在に過ぎない自分。『アスペちゃん』そして、オフパコマンガ。赤木クロの目指す世界

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 赤木が、自身の体験を基にした『アスペちゃん』を描こうと思いたったのは、昨年の冬のことだった。きっかけを現すキーワードをあげるとすれば「マウンティング」である。

《これまでの人生は、なにかと人にマウンティングをされがちでしたね》

 赤木は、それまでの人生をそんな風に振り返る。相手より自分が上だと誇示しようとする行為「マウンティング」。マウントを取る・取られるは、日常生活のさまざまな局面で見られる。とりわけ、自分に自信のない者は、狩りをする獲物のように自分より劣っているに違いない人間を探すことに躍起になっている。どちらかといえば控えめな赤木は、そうした自分より弱い者を見つけて優越感を得たい者の餌食にされがちだった。

 いくつかの事務所に入って活動するようになってからも「お前はブスだから売れないし仕事がこない」というパワハラまがいの言葉を、幾度も投げつけられていた。

 コスプレイヤーとして、もっと上を目指したい。そう思って所属した事務所は良いところもあり仲良くしてくれる子や先輩もいたが、組織に属するのは自分に合っていないなとも感じた。「もう人に頼るのはやめて、自分の力で活動しよう」。友人からの指摘をきっかけに、いくつかの経緯を経て「自分がアスペルガーなんだ」と気づいたのは、そんな決意を固めてから数カ月後のことだった。

 自分の人生を振り返る機会が増えた頃、また「マウンティング」をされてしまった。同人誌即売会での話である。詳細な言及は避けるが、あるきっかけでその絵師と知り合った赤木はイベントで売り子をすることになったのだが、その現場ではなにかと行動の端々で差別的な扱いや態度、見下したような言葉を投げつけられているのに気がついた。

 悔しかったが、それよりも大して親しくもない自分に、なんでそんな態度を取ってくるのかが、わからなかった。「自分が絵師ではなくコスプレイヤーだからなのか? ……おとなしいからなめられているのか?」。すぐには、答えは出なかった。

 しばらくして、ふとその作家の本を手に取った。パラパラとページをめくり、それから一ページずつなめるように読んだ。

《漫画としては面白くなかったんです。絵の上手さでは勝てないけど、マンガの構成力で勝てるかな? と思ったんです》

 こんな時、凡庸な人はこんなことを考えて満足する。「売れているかもしれないが、自分はコスプレイヤーとして人気者なんだ」と。ようは別のベクトルで自慰的に「マウンティング」をやり返すのである。でも、赤木はそうではなかった。思いも寄らない考えが浮かんだのだ。「だったら、相手の土俵に上がって勝てばいい」。突然、ふつふつと心が燃え始めた。

《漫画の構成力には自分でもどこからくるかわからない謎の自信があったので、私でもできる! と思い、その日のうちに描き始めました(笑)》

 マンガを描いた経験はほとんどなかった。記憶をたどれば、中学生の時に親しい友人と交換日記のようなイラストやマンガを描いた程度だった。つまり、人に見てもらうようなものを描いた経験は皆無。でも、やれるという確信があったので、すぐに描かずにはいられなかった。幸いにも、コスプレ活動している過程で知り合った友人たちにマンガを描くと言ったら、いろいろと機材を提供してくれた。うまい人の絵を見て書くと、すぐに上手くなると絵描きの友人にアドバイスされたので、必死でうまい人の絵を真似て描いた。

 パソコンにクリスタ(CLIP STUDIO)を導入し、友人のマンガ家から液タブも譲り受け、描きたいこともたちまち浮かんできた。とりわけ柱になっていたのは「自分の体験したことをアレンジしてネタにしよう!」というもの。試行錯誤しながら、コスプレイヤーとして経験した、楽しいことや嫌なことを同人誌に描き、コミケで配布した。

 そうやって毎日のようにマンガを描きながら、自分の描くべき方向性を探る日々も続いた。そんな時、田中圭一の『うつヌケ~うつトンネルを抜けた人たち~』を読んだ。父親の本棚にあって、子供の時から大好きな作品だった『ドクター秩父山』の作者が、描く自身の鬱病の体験を綴る作品。それを通じて、作者が、学校や職場での体験、日常の中の苦悩や喜びを描くエッセイコミックというジャンルの魅力に気づいた。

《田中さんの作品を読んでいく中で、自分の人生のエピソードがいくつも浮かびました。そんないくつものエピソードをつなぐのが「アスペルガー」という言葉だったんです》

 こうして『アスペちゃん』という物語ははじまった。

《社会のアスペルガーに対する許容性のなさ……受け手側に知識がないとアスペルガーは理解されない……アスペルガーの知識が広まっていない社会にマンガで訴えることができると思ったんです。それで、マウンティングや差別された時の悔しい気持ちも発散できるかなと思って。もちろんきれい事だけではなく、馬鹿にしてきた人たちに復讐したい、見返したいという考えもありました》

 もし、この言葉通りの作品だったならば『アスペちゃん』は、決して読み手を惹きつける作品にはなり得なかった。ただ、コスプレイヤーが手慰みにやっている下手くそなマンガ……そんな悪罵を投げつけられて終わっていただろう。一種の「怨念」から始まったはずなのに、そんなことは微塵も感じさせない共感性の高い作品となっている。

 そこには「セクシー」とか「色気」という言葉で表現されるコスプレイヤーにとどまらない、赤木の独特の魅力があるのではないか……。

※※※※※※※※※

 今回、なぜ赤木を取材しようと思ったのか。その経緯を記しておかなくてはならない。

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