【今月の不健全図書レビュー】番外編:不健全図書指定を完全無視する出版社・ジュリアンパブリッシングの意図

 昨今、東京都の不健全図書指定の定番となっているボーイズラブ(BL)。その締め付けが一段と厳しくなりそうな事態が起こっている。不健全図書指定をまったく無視する出版社が登場したのだ。

 その出版社は、3月にイイモ作の『イノセント』が不健全図書指定されたジュリアンパブリッシング。この単行本は3月14日に開催された東京都青少年健全育成審議会で不健全図書指定が決定。3月18日付で告示が行われている。

 ところが、同社が運営する「arca comics編集部」のTwitterアカウントでは、3月30日に都内の某書店で、『イノセント』が別の単行本と共に陳列されている状況を写真入りでツイート。まったく区分陳列が行われていない様子を、自ら明らかにしたのである。

 これまでも、不健全図書指定された単行本が、区分陳列されることなく売られていることは、しばしばあった。とはいえ、ここまで堂々としているのは、前代未聞。ちょうど3月といえば東京都の青少年・治安対策本部のサイトが大改装されていた時期。異動も重なったりして、通例、出版社と書店に行う通知が遅れたのではあるまいか。そう思って、まずは東京都青少年課に確認を。

 話を聞いたのは、4月から東京都青少年課に配属された重成浩司課長。さっそく確認を取る旨を述べた重成課長からは、すぐに折り返しがあり「通知は通常通り行われています」という。

 ならば、考えられるのは書店・出版社のいずれもが郵送される通知を見ていないか、意図的に無視しているかのどちらかだろう。これは、両者に取材をしてみなければならないと思ったが、ここで新たな動きが。合間に別件で出版関係者と話をしていたところ、この話題になったのだが……。

「いやいや、あの書店。コンプライアンス厳しいから、担当者がクビになっちゃう。伝えておくから」

 とのこと。すぐに伝えるというので、どうなったかと、その日の夕方に件の書店に行ってみたら棚からごっそりと撤去された痕跡が。

 そこで、カウンターにいき「この本、探してるんですけど」と聞いてみたところ、パソコンをはじいた後に必死に「あれ、在庫があるはずなんですが」と一生懸命探し始めるではないか。客としては非常にありがたい書店だが、少しずつ罪悪感が……。そこで「あの、不健全図書指定されてんじゃ~」といったところ「ああ、ならカウンターにあります!」と。

 と、そこまではよかったのだが「さっき下げたんですよ!」と余計な一言を。さらにお金を払っている間に追加で2回「さっき下げたんですよ」と言われたのである。

 どうも書店の側は完全に気づかずに陳列をしていた様子。そこで、出版社側の意図も聞いてみることに。一旦、メールとFAXで2回、取材依頼を行ったが、こちらの記した期日を過ぎて返しきたのは、慇懃無礼な取材拒否のメール。

「今回ご連絡頂きました弊社への取材につきましてですが、あいにく担当者にてお時間を取ることが出来ず、また取材の内容につきましても明確にご回答できる範囲のものではない為、丁重にお断り申し上げたく存じます」

 なるほど、ジュリアンパブリッシングという出版社は東京都の不健全図書指定の意味を理解した上で語ることもできない様子。この記事を書いている段階でも「arca comics編集部」のTwitterアカウントでは区分陳列をやっていない様子のツイートがそのままになっており、まったく何が問題なのかを理解できていないようだ。

 2010年の東京都青少年健全育成条例改定が問題になった際には、規制反対の論理として、萎縮効果や書店での販売が困難になることが盛んに使われた。しかし、不健全指定も完全無視する出版社の登場は「表現が萎縮する」といった論理が、もう通用しないことを示している。
(文=昼間たかしhttp://t-hiruma.jp/

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