『さよならマヌケな誘拐犯さん』手塚賞準入選は伊達じゃない!犯罪者なのに、魅力的なキャラが絵本ような雰囲気を生み出す不思議な物語

 今週の週刊少年ジャンプはもう読んだろうか。先週に引き続き、十代の作者が送る渾身の読切が掲載されている。

 今週の読み切りは、百瀬直先生の漫画『さよならマヌケな誘拐犯さん』である。手塚賞準入選受賞という期待値の高いこの作品はどんな物語なのだろうか。


 マヌケ面ながらも残忍な犯罪者として人々から恐れられる男、ヤギ。彼は森で偶然出会った少女を誘拐し、身代金を奪おうと画策するが…!?


 二号連続の十代の作者の作品。漫画の世界でも世代交代が進んでいるということなのだろうか。どの業界も低年齢化が進み、新しい才能がガツガツと上に昇ろうとする姿が眩しくも恐ろしい。

 今回の百瀬先生の作品も、若さからくる勢いが感じられる作品だ。

 白と黒のメリハリ感と、独特な画による味のある世界観。ギャグタッチなのか、と最初は思ったが、8割ほどこの絵なので大ゴマのキャラアップの時のリアルっぽい絵が逆に違和感に感じる不思議さ。個人的に脚の描き方が気に入った。走っているシーンの大ゴマの足は最高だ。

 コマも大ゴマだし単調でもあるが、作品の雰囲気に合っているからか、どこか絵本の中の世界みたいで温かみを感じてしまう。物語自体は特別目新しくない。成り行きから少女を誘拐することになってしまった主人公と、少女の交流譚だ。世間では凶悪犯と言われている彼の真実の姿と過去が、少女と過ごしているときと大きく異なる。凶悪性や大罪を犯している感が無さ過ぎて、「全部誤解では?」と思ってしまう。

 しかしこの漫画には不思議と魅力がある。ケチをつけようと思えばいくらでもつけられるとはずだ。ありきたりな話で、少年誌には必要であろうワクワク感や爽快感もどちらかというと少ない。コマ割りは単調だし、キャラが増えたら書き分けも苦手な気がする。

 だが、この絵の雰囲気と作者の描くキャラクターの魅力が強力だ。それだけで作品を読ませてしまうし、期待を持たせる。細かいところにクスっとさせるのも気になる点だ。長い作品で、もっと練った作品が読んでみたい思わされた。この作者の温かい世界観はそのままに、他にはどんな物語を生み出すのか。百瀬先生の今後の作品に期待したい。
(文=三澤凛)

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