まる寝子 ルポルタージュ

性別を越境するエロマンガの現在 TSFを描き続けて来た描き手・まる寝子の十余年

 エロマンガを主力とする出版社の中でキルタイムコミュニケーションは、まだ創業から十年に満たず後発の部類であった。優れた描き手を揃える業界の大手出版社と真っ向から競り合うことの困難を承知していた同社は、独自のジャンルを切り拓くことで存在感を増していた。例えば「ヒロピン」もの。ヒロインがピンチに陥り、様々な性的な行為に遭うというジャンルである。しかも、それも単にピンチに陥ればいいわけではなく、読者の嗜好を掴み、どんなにピンチに陥っても最後は逆転して敵を倒し大団円を迎えなければならないという、強固なこだわりのある作品群を量産していた。

 そんな出版社の看板になっていたのが、テーマ別のアンソロジー本であった。毎月、当時は二冊ペースでニッチだけれども読者を掴む単行本を生み出していた。女退魔師だとか、戦うヒロイン。それに、バイクに乗った女性のみをテーマにしたアンソロジーなんてものもあった。決して数は多くはないが、確実に欲しがる読者がいるテーマを創出することに編集部は不思議なほど才能を発揮していた。まる寝子が依頼を受けた最初のテーマは、スク水アンソロジーだった。幾度か打ち合わせをして、作品を描き上げた。

「よかったら、引き続き描かせてもらえないか」

 まる寝子の描き上げた作品に満足していたのか、編集者はすぐに次の依頼をしてくれた。次から次へと、様々なテーマで作品を描いた。多くはふたなりで。まだ形もない編集者のイメージをくみ取り、自分のアイデアと組み合わせ、読者が興奮する作品を生み出すことに、まる寝子は長けていたということだろう。そんな幸運の連鎖があったのは、まる寝子がマンガ家としては、なににも染まっていない時期と重なっていたからだと思う。「マンガを描きたい」とは思っても、いまだ「自分はこれを描きたいのだ」という確固たるものはなく、自分の描くべきものを模索していたのだ。

 そう思うのは、ぼくもまたそうだったからである。こうして、ルポルタージュとかノンフィクションと呼ばれる文章を描いている。でも、最初に風俗情報誌で体験取材のレポートの仕事をもらった頃には、そうしたものを描きたいという意志は微塵もなかった。ただ「ライターになりたい」という漠然としたものしかなかった。そうだったからこそ、ルポルタージュとかノンフィクションに出会った時に、自分の描くべきものに出会ったことに喜び、正否もわからないままに、その道を突き進む情熱を持つことができたのだ。

 まる寝子がTSFを描き続けることになったのも、最初からそれを描きたいという熱い情熱があったからではなかった。『カスタムガール』を経て、当時の担当に薦められて描いた『なりゆきショウガール』が思いの外反響があって、「じゃあ、次もと続いてきた感じかなあ」。

性別を越境するエロマンガの現在 TSFを描き続けて来た描き手・まる寝子の十余年の画像6
『なりゆきショウガール』※画像は編集部で加工しております

 それから十年あまり。TSF作品は積み上がっている。それは、まる寝子の作品が読者の支持を集めているなによりの証。十年も、そのジャンルでステップアップをしたことは、誇っていいはずなのに、とてつもなくストイックなのだ。ぼくが、すでにTSFジャンルでは三本柱に入る重鎮なのではないかと言葉を向けると、少し困った顔をする。

「どうなんだろう……正直、こんな風に取材も来るようになったら、悪い意味で殿堂入りしはじめたかなと思ってる……実際の人気があるなしとは別のところにいって、あとはこう……下がっていくだけかな」

 スッと右手を斜めに下げる仕草をすると、台所事情を隠すことなく話始めた。

「昼間さんみたいに、太いファンに支えられているのかなと思ってる……だって、同人誌書店に委託しているぶんの売上は決してよくはなくて、即売会でも売れ行きはいつも同じくらい。電子版の販売サイトも同じ。だから、ちょっとずつ減っているのかなと思ってるし……」

 エロマンガにおいて商業誌の原稿料は、それだけで満足な生活をおくることができるほどには十分ではない。たいていの場合は、商業誌もやりながら、同人誌もやる。人気のある描き手の場合は商業誌の原稿料よりも、同人誌のほうが売れた分だけ儲かるからと、商業誌で描くことをすっぱりと止めてしまう者もいる。その同人誌の世界も決して楽園ではない。

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