まる寝子 ルポルタージュ

性別を越境するエロマンガの現在 TSFを描き続けて来た描き手・まる寝子の十余年

 もっとも大きな変化は、男から女へと変化していることが明確に描かれるようになったことであろうか。「カスタムガール」が発表された頃、ほかに徐々に出現しつつあったTSF作品でも共通していたのは、男性の姿が明確に描かれないことであった。構成上は、1ページ目か2ページ目あたりには、さっさと女の身体へと変化している。つい十年ほど前には、興奮を覚えながらも男の主人公=読者自身が女へと変化することへの心理的抵抗感が、まだあったのだ。

 その状況は2010年を超えた数年間の間に、急速に変わっている。まる寝子の2013年8月に発行された単行本『おんなのこ当番はじめました』。その表題作では、少子化対策として男子が腕に装着した装置で女子になり、男子に女の子への免疫をつけさせるという近未来が描かれる。でも、この当番は不評である。なぜなら、ボタンひとつで女の身体になっても、もとの自分の容姿のまま身体が女になっただけ。すなわち、二目と見られぬ姿になるだけ。それに発憤した主人公が、徹夜して髪の毛を整え化粧品を買いにいき、次第に自分の身体を美しく磨いていく……というシーンに多くのページが割かれるのだ。

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『おんなのこ当番はじめました』※画像は編集部で加工しております

 同様にほかの作品でも、男性主人公がなんらかの理由で女の身体になってセックスをするという流れが当たり前になっている。この導入部で、男であることを印象づける構成は、2019年の現在では、一種の物語のテンプレートとなっているほどである。だから、最近はそのテンプレートも打ち破る形で、男がいかにして女の身体になるかを描こうとアイデアを駆使する描き手も増えている。

 その進化は、読者の支持と熱望があってこそのこと。ほとんどを占める男性読者が、自身が投影するキャラクターが射精ではない形で快感を覚えていること。読者自身も「女の子になりたい」という願望を忌避することなく認めることに躊躇がなくなっているのである。

 これは、別に決して広くはないエロマンガの世界だけで起きている現象ではない。例えば「男の娘」。かつては、女装少年という直接的な言葉もあったが、最近は「男の娘」という言葉がもっとも理解されやすい。このジャンルは、かつてはエロマンガをはじめ創作物だけの存在だった。

 それが今ではどうか。自分から「男の娘」を名乗ってアダルトビデオに出演する者も増えた。そこまで思い切らなくても、Twitterで女装して扇情的なポーズを撮影し公開する人。あるいは、Xtubeのような動画投稿サイトに自分のオナニーあるいは女装レズ動画を公開する人も驚くほどに増えている。

 それをしているほうもだが、観ているほうもゲイであるとか同性愛であるとか、そういう性自認に軸足を置いているのか。そんなことを、いちいち考えているヤツは少ない。たいていの人はこう考えている「こっちも美味しいけれど、あっちも美味しいのだ」と……。

 積み重なるのは、可愛い、エロい、気持ちいい経験。それはあらゆる「性」の壁を解き放つ。別に拳を振り上げたり、SNSなんかを使って、いつでもどこでも暗い怨念を書き殴っているわけでもないのに。

 だから、TSFは時代の変容の最先端。でも不思議なほどの、影響力は誰にも言及されてはいない。いったい、どんな人がどんなことを考えながら描いているのか。ふと、そこに近づいてみたくなったのは昨年11月に、まる寝子の新たな単行本『TSあらかると』を手にした時。そして、年末にコミックマーケットで手にした同人誌。

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『TSあらかると』※画像は編集部で加工しております

「ああ、なんでこの人はずっとTSFを描き続けることができるのだろう……本当に好きなのか。それとも、なにか情熱を燃やすきっかけが人生の中にあったのか……」。ぼくは考えるよりも先に、アポイントのメールを書いているのだった——。

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