スノッブで高度な作品を次々と送り出す、白泉社「楽園」での掲載作を収録した、ハルミチヒロ『あにいもうと』が発売になった。
白地が目立つ装幀というのが普及したのは、2004年に5回にわたって発売された「週刊わたしのおにいちゃん」の頃からだと記憶している。この時期、オタクからサブカルまで、多くの作品において装幀に白地を活かしたデザインが用いられた。その後、目新しさは消えて定着した感はある、この装幀。
実のところ、白地を活かした装幀というものは、けっこう高度な技術である。ゆえに、その装幀には多少の敷居の高さを感じさせることもある。そうした意識を逆手に取っているのだろうか、現在では、このような装幀のマンガ単行本といえば大抵はサブカルでスノッブな内容のもので占められている。
さて、この作品集で描かれているのは様々な愛の姿である。とはいっても、決して単純な恋愛ではない。なにか、こう、高度な肉欲などとは違う独特の愛。ラブかライクかアガペーかといえば、アガペーという言葉がしっくりきそうな気配なのである。
だから、ここに収録した作品を単純に「面白い」と賞することは困難なのである。なぜなら、筆者だけでなく多くの読者にとって、ここで描かれている愛というのは、実態のないフィクションでしかあり得ないからである。
収録作「ガールフレンド」では、女子校を舞台にボーイッシュで女子から大人気のヒロインが、同じくボーイッシュな魅力のあるクラスメイトと仲良くなりたいと願う姿を描いている。さまざまなボタンの掛け違えで上手くいかない中で、やがて二人は少しだけ相手のことを理解するようになっていく。物語としてはハッピーエンドであり、読者は「よかった」とホッと胸をなで下ろすだろう。けれども、なにか臨場感がない。それは、どこか遠くで起こっているリアル……時々、フィクションに感じる、そのような感覚も得られない。
そんな疑問を抱えたままに読み進んでいるうちに、同じような感覚は繰り返される。大好きな兄が連れてきた婚約者に反発する妹の姿を描く、表題作「あにいもうと」。年下の従姉妹の夢のために励む姿を見て人生を先に進もうと決意する男を描く「春になったら」。あらゆる作品は、幸せな結末を迎えて満足感を与えてくれる。
そのうちに気づいた。一連の作品から感じるのは、テレビドラマ的な満足感なのだと。平日の夜9時以降に、流すように見ているドラマ。決して集中するのではなく、スマホでも弄りながら見ているであろうドラマに感じる満足感。一緒に視界に飛び込んでくる、テレビの枠の外の日常は、それをあくまで作り物の別世界で起こっている出来事だと知らしめ続ける。真っ暗な映画館で、画面に集中するしかない状況で得られる臨場感とはまったく別のもの。
それに気づいた時に、改めて感じるのだ。この一連の幸せな物語は、本当に面白いのだろうかと。きっと、楽しいのは、このスノッブな装幀を含めた、このような作品を読んでいる自分自身。面白さとは錯覚に過ぎないのではないか。
読者が自分自身と対話を迫られるという点では、名作と呼べるのではなかろうか。
(文=是枝了以)
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