ペンネームから感じるのは、この作品に賭ける情熱。あるいは、食べるのが好きなのか。
揚立しの『ご飯つくりすぎ子と完食系男子』(幻冬舎)は、とてつもなくご都合主義的な美味しい展開なのに楽しめる作品である。
この作品、ご飯をつくりすぎてしまう癖があるOL・荻野が隣人の大学生・平瀬に、おすそ分けすることから始まる物語だ。
隣人の可愛いOL……途中で、新入社員ということがわかるので、おそらくは2~3歳年上のお姉さんであろう……が、おすそ分けしてくれるのである。乾ききった都会の生活で、果たしてこのようなことが、起こりえるだろうか。いやいや、絶対にないからこそ、ファンタジーとして楽しめるのである。
最初は美人局か何かかと思った平瀬だが、食の誘惑には勝てずに、もらってしまう。そこから始まるのは、ほぼ毎日のように、おすそ分けをもらう関係だ。なんだろう、この荻野の働いている会社というのは、海山商事ばりに定時退社が当たり前の会社なのだろうか?
そんなことも考えてしまうわけだが、この作品においてもっとも注目すべきは、おすそ分けされる、おかずの内容である。最初は、イカと大根の煮物、カレー、ナポリタン、鶏もも肉の野菜巻き、手作りの餃子、ポテトサラダとアジフライ……。
まず、最初に登場するイカと大根の煮物は、平瀬いわく味が染みていて、ご飯がすすむらしい。このスゴさがわかるだろうか。煮物料理というのは、とても単純な料理である。けれども、本当にうまい煮物というのは、単にクックパッドでレシピを検索してもできるものではない。なぜだかわからないが、同じ分量を投じても料理を経験値を重ねていないと、美味しくは仕上がらないのである。それを、おそらくは20代前半にして成し遂げている。そんな女子がいたら、その時点で結婚を申し込んだほうがよい。ゆえに、あまりにご都合主義的な香りがにじんでしまうのだが、揚立氏の描く料理には、そんなツッコミなど無用な魅力があるのである。
そして、次々と荻野がつくりすぎる料理も「どうしてそうなった」と思いながら、楽しめるものばかりだ。ナポリタンなんて、麺をゆでる時に分量がわかるはず。アジフライに至っては、いったい何枚揚げているのか……。
絵だけ見ていると、食堂か給食センターかと思ってしまう量をつくっているのだから、たまらない。
しかも、それが毎日続くのである。
もはや、周囲から見れば「二人はデキている」としか見えないのではなかろうか。当然ながら、二人の関係は一緒にご飯を食べるところまで進展する。毎日、おすそ分けをくれるだけではなく、一緒に食べてくれるなんて、完全に男女の仲ではないか!
うらやましい、飯も美味そうだし、二人の関係性がうらやましい。読んでいるうちに、腹も減る。腹も減るけど、二人の関係に嫉妬して「畜生!」と、包丁で大根をぶった切りたくなる作品であろう。
決して、派手な作品ではない。きっと作者も、登場人物のような決して目立たないキャラクターか……と思ったら、Twitter(@shino_HWB)には「揚げたてのハムカツ。主に漫画やイラストを描いていて、たまにDJやらボーカルやらをしている揚げ物です」という紹介文が。ああ、フィクションと現実は違うみたい……。
(文=是枝了以)
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