名探偵シャーロック・ホームズの宿敵“モリアーティ教授”が主人公! ダークサスペンス『憂国のモリアーティ』レビュー

 19世紀末、イギリスのロンドン郊外で下々の民の相談役になっていたのは、モリアーティ伯爵家の次男・ウィリアム……しかし実はそうではなく、長男・アルバートのお下がりを着た「ウィリアム」を名乗る彼は、養子に招かれた元孤児だった。義母に「高貴なる者が孤児を養うのは慈善活動」と言われ、執事にまで「遙か下の階級の者」と言われても、美しい笑顔を絶やさず微笑むのは何故なのか──? そんなふうに引き込まれずにはいられないのがこの『憂国のモリアーティ』(原案:コナン・ドイル、構成:竹内良輔、漫画:三好輝/集英社)だ。コナン・ドイルは言わずと知れた『シャーロック・ホームズ』シリーズの作者であり、その宿敵とされているモリアーティ教授にスポットを当てたのが本作である。

 舞台となる最盛期の大英帝国は、完全なる階級社会。強制的に命に優劣を付け、必然的に差別を生む。貴族の命令は絶対である中、そんな社会に辟易していたモリアーティ家の長男・アルバートは、孤児院で子供たちに読み書きを教えながら、神の前で「悪い貴族をやっつけろ」と説く一人の少年に目を付けて、引き取ることに決めた。彼は「理想の為に人を殺せるか」と少年に問う。金と権力を持つアルバートに、少年の知恵と勇気があれば、世界を変えられるかも知れない。2人の理想は合致し、孤児の弟・ルイスとともに、ある計画を練った。孤児の兄弟を良く思うはずがない、次男と母親の“処分”である。3人は完全犯罪を成立させ、新しくアルバート、ウィリアム、ルイスという「モリアーティ3兄弟」となり、天下の大英帝国を敵に回してでも世界を浄化し、美しい理想の社会を築いていこうと動き始める。

 第1話でこのモリアーティ3兄弟の誕生を描いた後は、物語は13年後に進む。孤児だった少年は、ウィリアムを名乗ったまま16歳で大学に入り、21歳で大学教授になっていた。その頭脳は突出しており、引っ越した先でももう1つの仕事である「犯罪相談役(クライムコンサルタント)」をこなしていた。領地代を下げて民衆の心をつかみ、“悪い貴族”の罪をあばいて罰を下すモリアーティ3兄弟。その描写は丁寧でわかりやすく、また非常に人間味がある。ウィリアムの思いつく完全犯罪も秀逸で小気味良い。決して自分では手を下さず、巧妙なトリックを仕掛けて自殺や病死に見せかける手腕は見事で、さすがホームズの宿敵と言ったところだろうか。

 第3話からは新しいキャラクターも登場し、一層面白味を増していく。美麗絵師の三好輝氏が描く人物は皆個性的で美しく、主人公となるウィリアム・モリアーティもさることながら、筆者の推しは兄のアルバート! さすが貴族という優雅さと美しさの裏に、理想を叶えるための大きな野心を抱く彼は、ウィリアムを見つけた時から輝いている。いけ好かない貴族の中にも、彼のような思想を持つ者がいれば世界は本当に変えられるかも知れない。そしてウィリアムの弟のルイスは、控えめながらも利発で気の利く逸材。モランとフレッドという仲間も集合し、今後の事件やその収め方にさらに注目だ。

 マンガ『憂国のモリアーティ』は、その原案である『シャーロック・ホームズ』シリーズを知らなくても十分面白く読めるが、いずれモリアーティとホームズの邂逅はあるのだろうかと、わずかながらも期待してしまう面も否めない。しかし巻末のおまけマンガにあるように、60もあるシリーズの中で、モリアーティについて言及されているのは実はわずか6作品らしい。コナン・ドイルですら御しきれなかった男だとも言えるモリアーティの語られざる物語──これを楽しみと言わずしてどうしよう。
(文/桜木尚矢)

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