『進撃の巨人』OP曲を手掛けたSound Horizonの人気楽曲がマンガに! 『ヴァニシング・スターライト』レビュー

 サウンドクリエイター・Revo氏と言えば、自身が手がける“幻想楽団”「Sound Horizon」の主催者であり、プロデューサーである。2013年に「Linked Horizon」名義で制作された、アニメ『進撃の巨人』(MBS系)のテーマ曲「紅蓮の弓矢」がヒットし、紅白出場を果たしたことによって、そちらから知ったというファンも多いかも知れない。

「Sound Horizon」は“Story CD”と呼ばれるコンセプト・アルバムを主軸に展開しており、物語性のあるその音楽は、人それぞれが持つ解釈のあり方を大切にしている。そのため、多くの世界観が存在するのが特徴だ。今回取り上げる『ヴァニシング・スターライト』(漫画:有坂あこ/角川書店)は、作家の時田とおる氏(後に小説版を出版)の解釈のもとに構成されている。

 2014年に「Sound Horizon」のデビュー10周年記念作品として発売されたCD「ヴァニシング・スターライト」(ポニーキャニオン)は、パラレルワールドに存在する架空の新生バンド「VANISHING STARLIGHT」のメジャーデビューまでを描いている。

 マンガ及び小説版では、音楽への情熱が強いあまりに周囲との衝突が絶えない、ケンカっ早く哀しい過去を持つ歌うたいの少年・ノエルが主人公だ。その日本人離れした名前と、白銀の髪色のせいでいじめられ、親族にも虐げられてきた。昔から誰にも心を許すことのなかったノエルは、触れば怪我を負うほどとんがっていて、他者を寄せ付けない。この頑固さは生半可ではないのだが、バンド仲間に裏切られて自棄になっていたノエルの元に、自称敏腕プロデューサーのRevoという人物が突如現れて「君をプロデュースしたいんだ」と言う。

「全身真っっっ黒!」なRevoに驚愕するこの時のノエルのリアクションがとにかく面白い。セリフの内容など二の次だ。シリアスな物語の中にも、こういったコミカルなシーンが散りばめられていて、読者を飽きさせない。

 そして、ここに描かれているRevo氏も掴みどころがなく飄々としていて、それでいて自信に満ち溢れているのがわかる。どうせまた詐欺か何かで、持ち上げるだけ持ち上げて落とす気だろうと、ノエルは相手にしないで立ち去ろうとするが、真っ黒な男はノエルに一冊の本を渡す。そのタイトルは『よだかの星』。一瞬何かを感じたノエルだったが、本を突き返し、逃げるように立ち去る。それでも黒い男の言葉が忘れられないノエルのもとに、市蔵というマネージャーを名乗る男がやって来る。

 ノエルの知らない間に、インターネット上には、「Revoによるノエルのメジャーデビュー決定!」の情報が溢れていた。簡単な勧誘ではノエルが話に乗ってこないことを理解していたRevoが、既成事実を作ることでノエルの退路を断とうと試みたのである。なんともあざといやり方だが、直接文句を言わなければ話だけがどんどん進んでしまう。仕方なく市蔵に案内されてRevoのもとへ赴くノエルだったが、そこで聴いた黒い男の演奏に、思わず歌わずにはいられなくなるほどの身震いを感じた。意地でRevoよりも素晴らしい音楽を披露すると意気込むノエルだったが、乱れた気持ちでは誰の心も奪えない。そこでRevoは「君に三日あげよう」と提案する。彼の心に響くような音楽を作れれば、今後はノエルのことを諦めるという約束に、彼は何が何でも認めさせてやると意気込むが……。

 これまで周囲の人間に恵まれてこなかった、そして来る者さえ拒んでいたノエルが、Revoとの邂逅によって刺激され、音楽を武器に戦おうとする。自分が何のために歌っているのか、再度考えさせられるノエルの過去が徐々に明らかになっていく様子も興味深い。Revo氏によると、この作品は宮沢賢治の童話『よだかの星』に触発されたという。物語の内容もこのマンガの大きな軸となってくるが、『よだかの星』や原曲「ヴァニシング・スターライト」を知らなくてもすんなり物語に入っていけるだろう。

 マンガと小説の帯にもある、原曲の歌詞「生きてるなら燃えてやれ!」というメッセージには、心を揺さぶられる強さがある。「Sound Horizon」に触れたことのない方にも、ぜひ手にとってほしい。あなたにはノエルと同じ色の寂しさは見えるだろうか──?
(文/桜木尚矢)

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