いよいよ11月12日公開!『この世界の片隅に』片渕須直監督1万字超えインタビュー!!

―― そういう事実が積み重なって、大和の入港が昭和19年の4月17日で、当日の天気などもわかるようになっていくんですね。

片渕 天気は曇りです、高曇り。青空じゃないんですよ、こういう時創作物だと手癖で青空にしちゃいそうなもんですけど。ただの曇りでもなく、高い位置に雲があって、低い空には光が満ち溢れていて、気温も意外と高くて穏やかな一日だったんです。そういう日に、そういう場所にいるすずさんを想像すると、生々しいというかリアルというか、実在していたという感じがしてくるんですよね。

―― 他誌さんのインタビューでも、「調べることで、すずさんが実在の人物のように思えてきてうれしかった」というような意味のことをおっしゃっていましたね。

片渕 そうなんですよ、たとえばこの辺で道を間違えて、あっちのほうに行っちゃったんだろうな、とかね。

―― リンさんと出会うシーンですね。

片渕 そうそう、現在の呉市とは道がちょっと違うので、当時の航空写真や地図を見比べて、どこをどう歩いていたとか考えていると……それがなかなか面白いんですよ(笑)。だんだんとすずさんの実在感が浮かび上がってくるような感覚を覚えました。

■ストーリーの柱は周作ではなくすずさんと径子に

―― 原作は全3巻、しかも1冊あたりの情報量もかなり多いのですが、映画を拝見しても、単行本からカットされた部分が気にならない。監督はどんなところに注意されて、脚本を書かれたんですか?

片渕 カットした部分もそれなりにあるんですが……お義姉さんである径子さんとの関係がどう進んでいくのかを、一つ柱に据えました。作中のエピソードをコレくらいの紙に書いて(名刺大ぐらいのサイズを手で示して)、順番に壁にはりつけていったんです。径子さんとのストーリーからは外れるから、このエピソードは外していこうなどと整理して、脚本の形ができあがっていったという感じです。

―― すずさんの夫・周作さんではなく、径子さんなんですね。

片渕 径子さんなんです。周作さんとすずさんは、別にいがみあうことも少ないですし……周作さんとのお話をしっかり描く、メインに据えるのであれば、全長版を作ったほうがいいと思いますけどね(笑)。それは今後の課題として、今作は径子さんに主軸に据えたのは、すずさんは彼女に当初認めてもらえてないんですよ。中盤でもなかなか認めてもらえず、ようやく最後に認めてもらえる。径子さんとの人間関係が一番、山あり谷ありというか。

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―― たしかにデカい谷もありますね。

片渕 そう、デカい谷があって。それが物語にとって最も大事なことの一つだし、すずさんの人間形成にとっても大事かなと思ったんですね。

―― そういわれると、確かに径子さんとの関係修復が原作終盤でもメインになってきています。

片渕 そもそも、コミックの最後のページの最後のセリフは径子さんですからね。だからすずさんは径子さんのことをどう思っていたのか、実際現れた径子さんは彼女の期待や予想とどうギャップがあったのか。そういった部分を径子さんには足していますね。たとえば、つぎはぎのモンペを着ていたすずさんに対して「冴えん」と径子さんが言うシーンの前には、「お姉さん、モガだったんですね」というセリフを足しているんです。

 また、径子さんはファッショナブルな人なんです。髪型にしても最後の最後まで、ただ結ってあるのではなく、三つ編みにした上で結ってある。余裕がなくてもそこは崩さないし、そういう部分にすずさんが憧れていたりもしますから、“モガ”という言葉を足してみたんですね。

―― 画作りについても教えてください。原作コミックは多様な手法を試されていますよね。すずさんが描いた絵が出てくるところではタッチを鉛筆風に変えたり、カルタなんてのもあります。“画作り”も映画では繊細に再現されているなと思ったんですが。

片渕 この画作りを頑張って再現をしていかないと、『この世界の片隅に』のアニメ化をやったことにならないんではないかと思ったんです。再現するにあたって、特に苦戦したのはすずさんが描いた絵。アニメーションの中での絵というのは表現するのが難しいんですよ。

―― 同じタッチだと、作中でのそれが写真なのか絵なのかわかりづらいし、全く違うのも変ですし。

片渕 そうなんです。当初はこうのさんに描いていただくのが一番いいかなと思って、すずさんが子どもの頃に描いた「冬の記憶」は実際に何枚か描いていただいたんです。でもこうのさんもお忙しいし、時間的に厳しいとなりまして。原作のイラストを使用させていただくにしても、すずさんがそこにいたりする場合もありますから(マンガ表現としてすずさんが描いた絵にすずさんが登場していたりもする)。じゃあどうするのかって言ったら、やっぱり描くしかないんですよ、一から(笑)。

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