アイドルの処方箋 第2回

小金井市・女性襲撃事件で受けたインタビューはなぜねじ曲げられたのか? 世間の偏見と地下アイドルの覚悟

ーー地下アイドル“海”を潜行する、姫乃たまがつづる……アイドル界を取り巻くココロのお話。

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 世の中には、話の通じない人間が存在している。

 話の通じない人間は、大きくふたつにわけられる。なんらかの身体的、精神的事情により会話が困難、あるいは単に先入観を持たれていて話が通じないと思い込まれている人々。そして、相手の気持ちを考えられない人間である。

 言うまでもなく、前者は話の通じない人間ではない。たとえば、地下アイドルとして活動していると、知的障害や発達障害を抱えた方、躁鬱病や、吃音の方などと物販で会話をすることがある。前回記したように、私が相手の気持ちを汲み取りきれず失敗してしまうこともあるが、彼らからは会話をしたい気持ちが伝わってくる。会話が進む速度はゆっくりだが、自分の話を伝えたい気持ちと、私の話を知りたいと思ってくれている気持ちによって、確実に進んでいく。そして、偏った見方をされがちな地下アイドルのファンも、犯罪者予備軍ではない。普通の人間である。

 問題なのは一定数、確実に存在している“後者の人間”だ。相手のことを好きだと思っているが、実のところ相手を好きな自分が好きなので、相手が思い通りにならないと癇癪を起こしてしまうような人が、後者の人間に当てはまる。

 2016年5月21日、小金井市で20歳の女性が、男に刺傷された。私はこの日を一生忘れないだろう。

 世間に課されたストーカー問題、マスコミによる偏向報道、地下アイドルに残された警備の課題等々……複雑に入り組んでいるように思われた今回の事件をめぐる問題は、実はごくシンプルで、この“後者の人間”に対する恐怖心だった。

 事件後からの数日間、私は朝から晩までテレビ局や新聞、週刊誌からの取材を受け続けた。地下アイドルとファンの距離感の近さや、ファンの危険性を執拗に聞き出そうとする報道陣。アイドル業界を危険視する世間の声はしばらくやまなかった。本質のストーカー問題から逸れて、地下アイドルとファンについて騒ぎ立てる人々を見て、“後者の人間”が自分の周りにも存在している恐怖心から逃れるために、自分とは関係のない狭い地下アイドル業界のこととして片付けておきたいのだろうと私は感じた。

 そして“前者の人間”が“後者の人間”と一緒くたにして語られ、被害者の女性がアイドルではないことが判明した後も、地下アイドル業界の危険性を指摘するような報道や記事は制作され続けた。

■いま、偏見から地下アイドルを守りたい

 事件の翌日、3社のテレビ局から情報番組の取材依頼が届いた。きちんとしたメールを送ってきたのは1社のみで、1社は文面にほとんど改行がなく、私の名前が間違っていて、もう1社にいたってはほかのアイドル評論家宛のメールがそのまま送られてきていた。普段の仕事であれば、絶対に受けない杜撰さだが、思うところがあってすべて引き受けた。当日はCDのリリース日で、夜に主催のライブイベントがあったので、会場と共演者に許可を取って、取材しに来てもらった。覚悟はしていたが、取材は辛辣なものだった。

 吉田豪さんは、テレビ局からの取材に関して、連載記事で以下のように記している。

某テレビ局からボクがこの事件について電話取材されることになって、「大手アイドルと地下アイドルの違いについて教えて欲しいんですけど、やっぱり距離感が近いと危ないんですよね?」と聞かれたから、「そもそも彼女はシンガーソングライターで、犯人もアイドルヲタとかじゃないから、地下アイドルの問題とはまた別」と説明。しかし、何度説明してもピンとこないのか「でも、やっぱり地下アイドルの世界はファンとの距離が近くて危ないんですよね?」と聞いてくる某テレビ局スタッフ。 (「アイドルでもないしヲタでもない! 小金井刺傷事件の報道に感じるモヤモヤ」|ほぼ週刊吉田豪より) 


 テレビ局の取材は、彼が書いている会話と本当に寸分違わず行われた。

「地下アイドルをしていて危険だと思ったことは?」
「ファンを怖いと思った瞬間は?」
「メジャーなアイドルと違って守ってもらえないんですよね?」

等々。これが3社繰り返された。その日もイベントは滞りなく終わったし、報道のカメラもそれを見ていた。周囲には遊びに来てくれたファンの人たちが、今夜のライブの感想などを楽しげに談笑している。目の前のそんな光景が、テレビ局の人たちには見えないようであった。

 述べ2時間ほどの取材を受けながら、私自身もひとりの人間として、事件の悲惨さと衝撃に精神を追い詰められていた。「今回の事件についてどう思われますか?」「被害者の方を思うと、どんな気持ちですか?」という質問には、冷静さを欠いて、思わず喉が詰まった。

 きちんとしたメールを送ってくれたテレビ局だけが、落ち着いた状態で取材をしてくれた。取材後には私の精神状態を案じて、忙しい中わざわざ電話をかけてくれた。しかし、その翌朝に放送されたのは、強引に編集されたファンの危険性を煽る内容だった。取材で、ファンが危険だということは話していない。説明の途中で話した部分が切り抜かれたのだ。

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