アイドルの処方箋 第2回

小金井市・女性襲撃事件で受けたインタビューはなぜねじ曲げられたのか? 世間の偏見と地下アイドルの覚悟

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 たとえば雑誌の取材で、記者の人がこちらの意図を汲んだ記事を書いてくれても、取材には同行していなかった編集者の判断で、面白おかしく話してもいない内容に改変されることがある。それと同じだ(ただし雑誌の場合は原稿チェックがあって、訂正できる)。放送を見た知人から、「ファンの人に気をつけてね」というメールが届いたのを見て、私は、報道も“後者の人間”であると思った。

 視聴率が取れそうな報道をしたいテレビ局と、恐怖心を“地下アイドル業界のこと”として片付けたい視聴者。取材に協力しても地下アイドル側にメリットがないことは明らかで、そもそも事件の凄惨さから取材を拒否する関係者がほとんどだった。周囲の関係者から聞いただけでなく、取材依頼メールの誤字や、実際に顔を合わせた報道陣の焦りから、取材を引き受ける人がなかなかいなかったのであろうことは充分に伺えたし、ニュースサイトで働いている知人からも、取材拒否が相次いでいることは聞かされていた。

 しかし、私が取材を受けたのには、個人的な思いがあった。

 私は、必死に自己主張して、有名になりたい、愛されたい、見返したい、願望を叶えるために活動している地下アイドルが好きだ。その魅力を、地下アイドルを知らない人にも伝えたくて、自身も地下アイドルとして活動しながら文章を書いてきた。

 しかし、文章を広く伝えるためには、地下アイドル業界を俯瞰する必要がある。そして、地下アイドル業界を俯瞰していると、自己主張や自身の願望を叶えることは二の次になり、自分自身は地下アイドルらしさから遠ざかっていった。それでも地下アイドルとして文章を書いていると、私の発言が地下アイドルの総意であるかのようにメディアに取り上げられることも増えてきた。私はずっと、自分が地下アイドルの総意だと思われることが怖かった。

 私と考えの違う地下アイドルの子に迷惑じゃないか、地下アイドルらしからぬ態度が見知らぬファンの人に嫌われるんじゃないか。そういうことを、事件以前もずっと考えていた。

 自分の発言をいちいち気にするなんて、自意識過剰だと思われるかもしれない。しかし、地下アイドル業界は思っているよりも小さく、偏見の目で見られやすい。さして有名でない私の発言でも、どう影響するかはわからない。

 取材で何度も繰り返されたように、危険な仕事だと思われているし、「アイドルがファンの男性から一方的に消費されている」という見方や、「若い女の子の性を売りにしていて嫌悪感がある」という意見もよく投げかけられる。人の嫌悪感とは、なかなか拭いきれないものだ。それでも最近では、過酷なドキュメンタリーや、過激な一面を報じる以外にも、バラエティ番組に地下アイドルの女の子が出演していたり、少しだけ盛り上がりを見せていた。

 取材依頼が届いた時、私が立ち向かうのは今だと思った。ワイドショーの視聴率のために、地下アイドルの文化を潰されたくなかった。地下アイドルのことをよく知らない人たちの当たり障りないコメントで、偏見を助長されるのは避けたかった。みんなが取材拒否している今、地下アイドルとして発言することで少しでも誤解が解けるなら、私は取材を受けるべきだと思った。そして、その翌日からも新聞や雑誌の電話取材や、テレビ局の取材を可能な限り受け続けて、耐え忍んだ。

 そのうちに取材依頼を受けた段階で説明していると、地下アイドルとファンの距離感は事件と関係ないということで、取材を取りやめて、企画自体を変える雑誌やテレビ番組もでてきた。しかし、事件翌日の取材だけは、受けたのが正しかったのか未だにわからない。当日巻き込んでしまったファンの人には、非常に申し訳なく思っている。

■地下アイドル文化を守り続けたい

 まだ私が未成年だった頃、数回しか面識がなく、ほとんど会話したことのない地下アイドルの女の子が、交通事故で亡くなった。顔見知りの人間に不幸があるのは初めてではなかったが、これまで経験したことのない衝撃に襲われて、しばらくの間、癇癪を起こした子供のように泣き出すことが何度もあった。そのたびに私は、地下アイドルを狭い村だと思った。本当に生まれた頃から苦楽を共にしてきた仲間が亡くなった気分だった。

 そうして私は初めて、自分が地下アイドルの世界に身を置いていること、自分が思っているよりもこの文化が大切で、同じ業界にいる女の子やファンに不幸になってほしくない自分の気持ちに気がついた。

 今回の事件は人前に立つ女性だけでなく、すべての人に関係する問題である。女性からのストーカー被害に悩む男性もいる。そして、地下アイドル業界も、その実態が報道されているより危険でないとはいえ、ファントラブルはゼロではないし、“後者の人間”だって紛れ込んでくる可能性はある。偏見からだけでなく、実際の被害にも対策を立てないといけない。今後は警備の課題も残されている。

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