「姫乃たまの耳の痛い話」第29回

ファンに押された“豚”の烙印…現実を受け入れられずに20代後半になった地下アイドルの悲しい覚悟

――地下アイドルの“深海”で隙間産業を営む姫乃たまが、ちょっと“耳の痛〜い”業界事情をレポートします。

151104_himeno_2.jpgご無沙汰しております! 久々の連載更新です。

 楽屋を出ようとした瞬間、「あいつ、もう豚だろ」という男性の声がフロアから聞こえて、彼女の足はすくみました。

「自分のことではない」と考えながらも、心にさざ波が立つのを抑えられませんでした。ライブハウスの壊れかけたドアノブから手を離して、そっと耳をそばだてていると、その男性の話し相手である若手アイドルの、反応に困ったような声が聞こえてきました。

「えっと……私はいまも彼女は可愛いと思いますけど……」

 歯切れの悪い返事が続きます。嫌な予感は的中したようです。

 彼女はフロアからの声を自分の体で遮るように、楽屋のドアの前で立ち尽くしたまま、ほかのアイドルに聞かれないことを祈りました。この体はまだ、豚と呼ばれるほど崩れていないと、彼女は思います。彼女は、それなりに可愛かったおかげで、美容のために努力をしてきませんでしたが、さすがに“豚”はないだろうと思い、憤然としていました。

 しかし、最初に足がすくんだ時、瞬時に心のどこかで自分のことかと思ったのもまた、事実です。嫌でも、忘れようとしていた先日の撮影会のことが、思い出されます。

 いつかは彼女だけで満員だった撮影会も、ここ数年は、ほかのアイドル達と抱き合わせでないと客足がまばらでした。最初は一緒に出演していた同世代のアイドルたちも、20代後半になると、ひとり、またひとりと辞めていき、今では彼女ひとり、駆け出しの若いアイドルに囲まれています。同世代の子たちと一緒だった頃は、お互いにファンを増やし合うこともありましたが、若いアイドルと一緒になっても、彼女のファンが流れていくばかりです。しかし、若いアイドルたちは彼女を慕っているようでしたし、変わらず撮影会に呼ばれていることも自信に繋がっていました。もちろん、若いアイドル目当ての見知らぬファンが彼女に対し、「あの人、撮影に耐えられる体じゃないよね」と、笑って話しているのを耳にしてもなお、持ちこたえられるほどの自信ではありませんでしたが……。

 ファンの愚痴から逃れて、フロアから楽屋へ戻ってきた若いアイドルが、気遣うような、哀れむような視線を投げかけてきた気がします。こうなると忘れようと努めていた嫌なことが、芋づる式で思い出されました。

 物販の売上や集客が、目に見えて下がってきていること。この間のイベントコンパニオンの仕事で、彼女にだけあまりカメラが向かなかったこと。

 ギャラが下がったのは不景気のせいだと思っていたのに、若い子たちは昔の彼女と同じようなギャラをもらっていたこと。彼女自身が書いた新曲の歌詞がダサいと、レーベルの偉い人に鼻で笑われたこと。その人が勢いのあるアイドルグループにばかり力を入れていて、彼女のCDは宣伝どころか出していることすら隠したそうな態度をとっていること。

 もはや何に対してどのように怒ったらいいのかわからなくて、落ち込むのも嫌で、そうこうしているうちに、「なんだよ、なんだよ」と悔しくなって、楽屋で涙がにじんできました。彼女は恥ずかしくなって、共演者のアイドルに見られないように、壁のほうを向いてメイクを直すふりをしました。

潜行~地下アイドルの人に言えない生活

潜行~地下アイドルの人に言えない生活

もっと耳の痛い話、収録しました

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