「姫乃たまの耳の痛い話」第29回

ファンに押された“豚”の烙印…現実を受け入れられずに20代後半になった地下アイドルの悲しい覚悟

「私は何をしているんだろう」

 彼女は大学を卒業した後、地元の企業に就職しましたが、90年代の女性ボーカリストへの憧れが忘れられず、会社を辞めて東京に出てきました。張り切って上京したものの、歌の仕事も、ボーカリストへの道もなかなか見つからず、途方に暮れかけた時に見つけたのが、地下アイドルでした。

 最初のうちはライブの収入だけで、ひとり暮らしをすることが難しかったため、少しでも業界の人とコネを作れそうなイベコンの仕事を始めました。カメラを向けられることも、憧れた芸能人のようで達成感がありましたし、この瞬間はひとりのイベコンだけれど、いつもはライブで歌ったり踊ったりしていることを思うと優越感がありました。

 はなから90年代に活躍していた女性ボーカリストのようになりたかったのだから、歌詞が古くさいと笑われたのも、思えば狙い通りです。ただ問題なのは、彼女がいまでもイベコンの仕事を辞められずにいることや、その歌詞を歌っても意外性がなく、ただの古くさい人だと思われるようなアイドルになってしまったことです。いま、イベコンの子たちにライブを見せても、気を遣われるだけでしょう。間違っても羨ましがられないでしょうし、もしかしたら笑われるかもしれません。

 彼女は怖くなりました。そして、ずっとぬるま湯のように、地下アイドルとして漂ってきた自分を思いました。

 いまさら就職しようにも、職歴は地元の企業から途切れているし、地下アイドルとしての活動も、面接で話せるほどの成果をあげていません。

 楽屋の鏡で、改めて自分を見ました。

 昨日今日、地下アイドルになった10代の子たちと同じテンションの衣装。急に自分がものすごく頭の悪い女のように思えました。それでも、頭が悪いと思われても、彼女はその瞬間、地下にあるライブハウスで、アイドルとして踏ん張ろうと思いました。それ以外の方法が、思いつかなかったからです。まずはとびきりの笑顔で舞台に立とうと決めました。それがアイドルとしての、一番の仕事だと思ったからです。

 笑顔で舞台に飛び出すと、客席の後ろのほうで、ほかのアイドルのファンが、さっきまで撮影していた写真をカメラで確認していました。彼女は自分が駆け出しの地下アイドルだった時のことを思い出しました。いつの間にか、もう随分前のことです。あの時も、そうでした。まだ誰も彼女に興味がなくて、何人かの観客はカメラの写真を見ていて、目の前の彼女には目もくれませんでした。

 この日、初心に戻った彼女に、カメラばかり見ている男性は振り向くでしょうか。短い出演時間が終わる前に、一度でもこちらを見るでしょうか。彼女は歌い始めました。

●姫乃たま
1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。地下アイドル/ライター。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへ精力的に出演するかたわら、ライター業ではアイドルとアダルトを中心に幅広い分野を手掛ける。そのほか司会、DJ、モデルなど活動内容は多岐にわたる。現在、当連載を収録した初の著書『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー刊)も好評発売中!

[公式サイト]http://himeeeno.wix.com/tama
[公式Twitter]https://twitter.com/Himeeeno

[【はてな】地下アイドル姫乃たまの恥ずかしいブログ]http://himeeeno.hatenablog.com/
[【ブログ】姫乃たまのあしたまにゃーな]http://ameblo.jp/love-himeno/

潜行~地下アイドルの人に言えない生活

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