『H×H』冨樫義博も太鼓判!? 失敗続きの『テラフォーマーズ』小説版を担当する平山夢明の世界とは

『SINKER 沈むもの』の次が、筆者のオール・タイム・ベスト『メルキオールの惨劇』(KADOKAWA)。2000年に刊行された同作こそが、07年版「このミステリーがすごい!」第1位を獲得した『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)や、「日本冒険小説協会大賞」「大藪春彦賞」受賞作である10年に刊行された『ダイナー』(ポプラ社)など、近年高く評価されるようになった夢明の原型になっていると思っている(後にたびたび見られる“主人公・俺”スタイルが初めて書かれたのも同作)。

『メルキオールの惨劇』は、残念な死を遂げた夢ある若者の遺留品を集める男・オギーの依頼で、俺(12/トゥエルブ)が西部劇のような街に訪れ、女の調査をする物語。調査の対象である女・美和には、朔太郎と礫(さざれ)という子どもの下にもうひとりいたのだが、美和は「自分の子どもの首を切断した」という。その真相を探り、またオギーが喜ぶ遺留品を得るべく俺はやってきたというわけだ。糖分を摂取しないと調子が悪くなる俺もさることながら、同作において1番心を奪われるのは朔太郎。登場シーンから、首輪を繋いだ飼い犬をブンブン回すというぶっ飛びぶりであり、俺が自慰行為を教えればそれに没頭するし、犬は引き裂くし、そのくせ料理はすこぶる上手だし、「トゥーブ、トゥーブ」と俺を慕うし……と、狂気と愛嬌が同居した朔太郎こそが、その後の夢明作品を決定づけたと言えよう。

 もしかしたら、今までの流れで勘違いしている人もいるかもしれないが、夢明作品は、グロやミステリー、ホラーだけで評価されているわけではない。もちろん、それらの要素も十二分にキテいる。しかし、そこに“笑い”というスパイスが加わっていることで、傑作へと昇華されているのだ。

 それは冨樫氏のマンガに通じるところがある。『幽☆遊☆白書』(集英社)で、仙水との戦いに敗れた樹が「できればもう一日生きたい――明日『ヒットスタジオ』に戸川純が出る」というセリフを吐き、「オレも毎週見てる」と仙水に気に入られるシーンがあるが、11年に刊行された夢明の短編集『或るろくでなしの死』(KADOKAWA)に収録された表題作「或るろくでなしの死」でも似たようなシーンが描かれている。森の中で変態を拷問した“俺”が、その場を去る理由を意気揚々と「『笑っていいとも!』に吹石一恵が出るんだよ」と言い放つ。これこそが、夢明と冨樫氏の共通点。笑いではないが、この変態の拷問の方法も、『レベルE』(集英社)で椅子に座らせた悪者を、宇宙昆虫に襲わせようとする王子のやり方に似ている。

暗くて静かでロックな娘 (集英社文庫)

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