似たものを感じるのか、冨樫氏は夢明の短編集『他人事』(集英社)で解説を担当。その中では、「人間には、自分の中にある暴力的だったり残酷だったりする負の部分には近づきたくないという思いと同時に、どうしても覗いてみたいという欲求がある。僕の漫画も、自分自身の黒い部分にふれずにはいられないという、ギリギリのところで描いている」と、やはり自身の作品との類似性を思わせる文章をつづっている。
また、敬愛の証かのごとく、『HUNTER×HUNTER』(集英社)に登場するウェルフィンの念能力“卵男(ミサイルマン)”は、夢明の短編「卵男」(『独白するユニバーサル横メルカトル』収録)&「ミサイルマン」(『ミサイルマン』収録/光文社)から拝借している。
話を戻すと、小説『LOST MISSION II 悲母への帰還』は、そんな狂言者・夢明が描く。『テラフォーマーズ』の小吉や蛭間らが火星へと向かった同時期に、惑星調査船に密航し、火星を目指そうとする9歳の少女の物語になるという。「ロボットの夜」「夢魔」「キネマ・キネマ」など、毎度テーマを変える、井上雅彦氏監修のホラーアンソロジー『異形コレクション』(光文社ほか)に幾度となく参加し、どの作品も秀逸な短編に仕上げている夢明。おそらく、世界観や時代背景だけ借り、完全に自分のものに仕上げることだろう。
ただ、SF小説を書く作家ではないため(ぽいのは何本か書いている)、どうなるかは予想がつかない。しかし、映画化されながらも、いまだ公開されていない「無垢の祈り」(『独白するユニバーサル横メルカトル』収録)も、暴行やイタズラをする義父と、新興宗教にどっぷりと浸かる母を持つ、ド不幸な少女の物語となっている。『LOST MISSION II 悲母への帰還』も、(いい意味で)嫌な話にしてくれるのではないだろうか。
最後になるが、主人公が“俺”だったら傑作だと信じ、読み進めてほしい。「少女の物語なら、それはないだろ」と思うかもしれないが、「或るろくでなしの死」もこれまた不幸な少女を助けるべく“俺”が奮闘しているため、可能性はゼロではない。とにもかくにも、「タレ出るぜぇ?」(『メルキオールの惨劇』朔太郎)。
(文/かまど谷まどか)
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