Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第27回

クロの喪失感と葛藤に涙が止まらない! 松本大洋の『鉄コン筋クリート』はやっぱり名作だった

 松本大洋の描く街はバツグンに魅力的だ。ビル、看板、階段、車、人混み……それらが混ざり合う、カオスな町並み。そんな街の片隅に置き捨てられた廃車の中で眠るネコたち。見ているだけで気分が高揚してくる。

 僕はライターという職業柄、いろいろな街に行く。ビジネス街、住宅街、商店街、風俗街、ドヤ街、飲み屋街、スラム街……などなど。ひとつとして同じ顔はなく、それぞれに個性がある。まるで、街自身に人格があるように思える。可愛い街、カッコイイ街、愛したい街、肌が合わない街……さまざまだ。

 そして街に住んでいる住人は、街と人格を一部共有している。災害や再開発で街が急激に壊れたり変容していくと、住人の多くは、自分が傷つけられたような痛みを感じる。『鉄コン筋クリート』の前半では、その痛みを描いている。

 そして、後半ではもっと強い痛みを描く。大切なパートナーとの別れだ。

 自分の足りない部分を補完してくれる人、闇に落ちないように支えてくれる人との別れだ。その身を引き裂かれるような痛みである。

 大事な人と別れたクロがどんどん壊れていくのだが、その様子の1コマ1コマがヒシヒシと胸に迫ってくる。

 再開発を進めるヤツラが敵だったのだが、いつの間にか本当の敵は自分自身になっている。濁った弱い自分が許せないのか、闇に落ちた自分が許せないのかーー。久しぶりに読んだのだが、ポロポロ涙が溢れてきた。こんなに泣かされる作品は珍しい。

 すでに触れたが、『鉄コン筋クリート』の最大の魅力は、取りも直さず松本大洋の絵力である。ミリペンを使ってフリーハンドで描くタッチは、マンガよりイラストでよく使われる手法だ。

 僕が大学の美術学部にいたころは、『鉄コン筋クリート』の影響を受けて大いに流行った。僕自身、かなり影響を受けていて、当時のスケッチブックを見ると、松本大洋のパチモンみたいなイラストがいっぱい描いてあって、とても恥ずかしい。マンガ業界だけではなく、イラスト業界にも強い影響を与えた作家なのである。

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