「デザインの先に残る何かを生み出せたら」職業アニメ監督として生きるいしづかあつこの半生【後編】

――10年前、みんなのうた2004年10月・11月の放送曲として『月のワルツ』が放送された。当時、その神秘的な映像が話題となったことを覚えている人も多いに違いない。その監督、いしづかあつこさんは、最近では『ノーゲーム・ノーライフ』に『ハナヤマタ』と、テレビアニメシリーズの監督として慌ただしく活躍している。

 いしづか監督について、学生時代の自主制作や『月のワルツ』での認識を持つ人と、現在のテレビシリーズの監督として知る人とで乖離があるように思われる。現在も所属するアニメ制作スタジオのマッドハウスに入社してから10周年でもある節目に、色々とお話を伺ってみた。

【前編はこちら】

■自分の作りたいものを作りたいわけじゃない? 助監督経験から得た監督のスタンス

1412_ishiduka_sn.jpg『SUPERNATURAL:THE ANIMATION』公式サイトより。

いしづか「『月のワルツ』後ですと、テレビシリーズ『NANA』(06年放送)ですね。浅香守生監督が演出にしてくださって、“タップ”【編注:動画をぱらぱらめくる際に穴の開いた動画用紙の上部を留める器具】の意味すらわからないのに、いきなり何もかも1人で演出をやりながら、助監督やりつつ、設定制作やりつつのすさまじい日々が訪れて、死ぬかと思いました。各話のクレジットを見返すと、自分の名前が複数で連投になってると思うんですけど、『やってみる?』って言われると『やってみる!』って言っちゃうんで、後で後悔しますね……。『MONSTER』では最終話の絵コンテ半分くらい描かせていただけましたけど、演出自体はやったことがなくて、おかげでタフになりました。体重も7キロ減りましたね、『NANA』だけに(笑)。

 それもあって、浅香監督が認めてくださって、その頃から演出というよりも助監督ってポジションになっちゃったんです。ほかにもMVなどを制作していたということもあって、テレビシリーズ『黒塚-KUROZUKA-』(08年放送)のエンディングを担当させていただいたりもしました」

 その間、再び「みんなのうた」の制作オファーも来ていた。『月のワルツ』の1年後、05年10月・11月の放送曲として放送された『千の花 千の空』である。

いしづか「タイミングは覚えてないんですけど、あれもすごく大変だった覚えがあります。『月のワルツ』の時の伊藤智彦さんみたいに、自分の仕事を代わりに『じゃあやってやるよ!』って言ってくれる人がいるわけじゃないですし。それが普通なので、自分が普段やらなきゃいけないテレビシリーズの仕事をやりつつも、『千の花 千の空』を作って、“二足のわらじ”って感じがしました。しかも、『月のワルツ』みたいに大勢のスタッフを借りられるわけでもないので、こちらは完全に個人制作に近いですね。会社の美術さんや一部のアニメーターさんには力を借りたんですけど」

 そして「青い文学」シリーズにて監督経験を積んだ後、OVAシリーズ『SUPERNATURAL:THE ANIMATION』(11年発売)で、特殊な制作体制のもと、監督に指名された。この作品は、いしづか監督に監督としてのスタンスを自己確認するキッカケを与えることになった。

いしづか「『SUPERNATURAL』は宮繁之さんとの共同監督です。宮監督は情熱的でエネルギッシュな方なんですが、私はどちらかというと助監督肌が身についちゃってたので、みんなのバランスを取っていくタイプです。なので、一緒にやっていて監督と助監督みたいになっちゃうんじゃないかなって思ってました。けれど、そこは宮監督が私の立場を尊重してくださって、ディスカッションしながら『俺はこうなんだけど、どう思う?』って、いつも意見を求めてくれて、相性が良かったです。男性同士が共同監督をやるよりも、男女ってバランスがよかったんだろうなぁって思います。普通のシリーズだったら、監督が1人で決定権を持って、スタッフも監督の意見を求めるんですけど、2人体制だとスタッフはどっちの意見を聞いたらいいのか、悩んじゃうと思うので。

 その時に私は『自分の作りたいものを作りたいわけじゃないんだ』って、つくづく感じたんですよ。宮監督がそうしたいって言ったら、私もそれを再現したいって思うし、原作がこうだってメッセージを届けてきたら、私もそれをやりたいと思うし。悪く言うと『流される』になるんですけど、良く言うと『人がやりたいと言ったものを私の手で再現する』という感覚が身につきました。それは助監督経験が長かったことで培われたことですね」

「デザインの先に残る何かを生み出せたら」職業アニメ監督として生きるいしづかあつこの半生【後編】のページです。おたぽるは、アニメ話題・騒動の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!