「デザインの先に残る何かを生み出せたら」職業アニメ監督として生きるいしづかあつこの半生【後編】

■『ノーゲーム・ノーライフ』『ハナヤマタ』の経緯 そして今後の監督業の展望

1412_ishiuduka_hanayamata.jpgハナヤマタ公式サイトより。

 そして話は、いしづかさんが監督を務めた、今年4月放送のテレビシリーズ『ノーゲーム・ノーライフ』(以下、ノゲラ)、同じく7月放送のテレビシリーズ『ハナヤマタ』に辿り着く。

いしづか「『ノゲラ』は、『さくら荘』の最初の脚本会議で製作委員会との顔合わせの時に、メディアファクトリーのプロデューサーから『次も一緒にやりましょう!』って言われたんですよ。まだ『さくら荘』もスタートしてないのに(笑)。それでいろんな種類の原作を送っていただいたんですが、やはりその多くはラノベなんですよね。なので、その頃は私が監督をやっちゃいけないと思ってました。ラノベならではの面白さを理解するというか、どこで面白さを引き出すかのフックをつかめてないといけない気がして、『もしかしたら原作を台無しにしてしまうかもしれない』って話をしてたら、半年ぐらいして『ノゲラ』を渡されました。

 読んだ最初はあまりにもぶっとんだ世界観だったので、読み込めなかったんです。何が起きてるかわからないけど、それでも頭の中にいろんな映像が流れ込んでくるので、これだったらいけるかもしれないって、『さくら荘』の制作がスタートした一方で動き始めました。『ノゲラ』の脚本は花田十輝さんなんですけど、原作者の榎宮祐さんと同じで、面白いことのために勢いを大事にするタイプだなって印象を持ってました。ひょっとしたら私との相性がいいんじゃないかと思って、『さくら荘』の現場で花田さんと『ノゲラ』の話をするという(笑)【編注:花田さんは『さくら荘』でも脚本を担当】。

 その頃に『ハナヤマタ』の話も来てて、『ノゲラ』と時期が微妙にカブってしまうから無理なんじゃないかって言ってたんです。でも、『頑張ればいけるよ!』って言われて請けたら本当に大変だったっていう(笑)。両方とも毛色の違う作品だったから断ってしまうのが惜しかったのもありますが、『いしづかさんにやってほしいんです!』って言われると『頑張ろう!』ってなってしまうから引き受けました」

 駆け足ではあるものの、いしづか監督のキャリアをつかんでもらえたと思う。最後にあらためて、いしづか監督の“監督としてのスタンス”を確かめた。

いしづか「こう言ってしまうと聞こえが悪いかもしれませんが、決して悪い意味ではなく、作品はあくまで商品だと思って作っています。興味がある人、興味を持ってくれる人をターゲットにして作るのは当然ですよね。商品として作る以上はメーカーの意見を聞きますし、メーカーからの注文通りに作ります。そこに私の個性が反映されてるんだとしたら、それはたまたまにすぎなくて、やってるうちに頭の中でかみ砕く作業は入ってくるので、そこからにじみ出たものを『個性』として捉えていただけるんでしょうね。今までの作品で、私個人のメッセージがどれだけ入ってるかというと、メッセージなんて詰めてないので謎です。“原作に合ったメッセージを膨らませて伝える”“原作者が言いたかったことを伝える”“メーカーが『こういう表現をしたい』『こういうアニメを世に送り出したい』って言ったらそれを作る”という作業をしてるんです。

 だから大学の頃とスタンスは変わってなくて、デザイナーなんですよ。アニメ監督って名乗ってるけど、やってることはデザイナーで、メーカーと相談しながら商品の魅力を伝えるためのもの、お客さんに興味を持ってもらうためのものを作るっていうのと似てます。私はたまたまその表現がアート寄りだから作家性が強いとの評価もいただいていますが、実はそれって表面的な話でしかなくて、『私が作りたかったから作ったんだ!』って魂の叫びなアニメは、今のところ1作品も作り出せていないんですよね。もし、いずれ私自身も成長して、かつそういったメッセージを求められる人間になれたら、そのときこそ『作家性』について考える資格が与えられるんじゃないでしょうか。ものをデザインするだけじゃ足りなくて、その先に残る何かを生み出せてようやく、『監督』と名乗れるのだと思います。 だから私はまだまだ雑用係であって、この先、監督になるための課題は尽きないんですよ。大変だぁ(笑)」

 いしづか監督の10年は、所属するマッドハウスを含め、怒涛のように過ぎていった。アニメ業界の女性率が増加している話を耳にするようになった昨今。学生時代の自主制作で注目されたとしても、卒業後にアニメ業界に入り、しかも女性で早期にテレビシリーズの監督を務めるケースは珍しい。それだけに、今後もいしづか監督の活躍に期待したい。
(取材・文/真狩祐志)

■いしづかあつこ
愛知県出身。2004年、マッドハウスに入社し、NHK「みんなのうた」にて初監督作品『月のワルツ』を制作。その幻想的な映像が話題となる。その後、『MONSTER』『NANA』『ピアノの森』などで絵コンテや演出、助監督を担当。 一方で『ペルソナ4・ザ・ゴールデン』など、ゲームのオープニングムービーも監督。 テレビシリーズの代表作は『さくら荘のペットな彼女』『ノーゲーム・ノーライフ』『ハナヤマタ』など。

■マッドハウス
http://www.madhouse.co.jp/

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